どうでもいいこと

意地悪さをする吹雪、
西風に掠れる唇を
さらに傷つけ
速い足取りで逃げ隠れる。

足元を引っかく
真っ白なカキ氷の絨毯。

鼻から落ちる
真っ赤な鮮血が
イチゴシロップのように見えた。

恐くて隠したい色であった。

仕事の帰り道、
風の強く感じる日は
酷く疲れた頭を意識的に
ほったらかす必要がある。

好きでもないミルクティーを片手に
好きでもない曲を聴く。

自分の顔を手鏡で覗き見
がっかりする。
もう一度手鏡に顔を映す。
間抜けな感じがして
二度目のがっかり。
さすがに
三度目は見られない。

こんなつまらないことを
少し続けてやってみる。

もしも、オナラが出そうなときは
いかにも、音もにおいも出せず
出来るのかを試す。

読み終えた気分になるまで
読みたくない難しい本と
ずっとにらめっこ。

それでも
頭の疲れがなかなか取れないときは
目をつぶったまま何かを洗う。

皿、浴槽、髪、足、等々。

日常的に
好きなことより
好きではないことをやり続けている。
たまには、
自分だけのどうでもいいことをやってみる。
無駄なことをわざと私はやる。
無駄な時間をわざと使い、
ほっとする。

一年の中、
冬の吹雪の日が最もやりやすい。
どうでもいい無駄なことをね・・・。

安心してください!

私、とうとうおかしくなったのではありませんので。

お兄さんと旧正月

夜、韓国にいるお兄さんから電話が掛かってきた。

3ヶ月ぶりのお兄さんの声。

相変わらず、私のことを心配している。
そして、ついに、
お兄さんは泣いてしまう。

心が痛い。苦しいほど・・・。

お兄さんは今年で六十一歳。

ずっと、一人暮らしの生活
ずっと絵を描きながら、ずっと孤独と向きあいながら
ずっと肺の病気を患いながら。

複雑な私の家族関係・・・。

私がお兄さんの存在を知ったのは10代頃だ。

ある日、母は私を連れて山の谷間にある集落へ行った。
そして、小さな山小屋の前で「この中にオンミのお兄さんがいる!
今、お兄さんは病気で、病院へ連れて行くの。必ず、連れて行くのだから、
オンミも手伝いなさい!」

私はその時、何が何だか訳が分からなかったが
凄く嬉しかったのを覚えている。

「えっ、私のお兄さん!?」

お兄さんはその山小屋で絵を描いて暮らしていたらしい。
木の壁には沢山の絵が壁紙のように貼られていた。

私とは顔が全然似ていない。
父にも母にも似ていない。
草食動物みたいにお肉は食べないで草ばっかり食べる。
咳をする度にだんご虫のように体を丸める。つらそうに・・・。

思えば、
お兄さんの人生はあまりにも・・・かわいそうである。
人の人生を軽々しく
‘‘かわいそうだ’’と思うのは失礼なことだが、
それ以外の言葉が見つからない。

いつも人に騙され、いつも損をする。
いつも貧乏で、涙もろい。

私は、そんなお兄さんが大好きだ。

30分位お兄さんと電話で話をした。
毎回、お互い同じ事をくり返し話す。
そして毎回私は守れないまま、今度こそ会いに行くからね・・・と言う。

電話を切った後の、
自分が凄く嫌い。情けない。

明日は韓国のお正月。
お兄さんは、せめて私の声でも聞こうと、
重い受話器を取ったに違いない。

頑張ろう!頑張ろう私。

いつか娘を連れて韓国へ行き、笑顔でお兄さんに会いたい。
お兄さんに娘を逢わせたい。

お兄さん!
どうか元気でいて下さい。

必要

祈る必要がある
跪く必要もある
不幸になる必要がある
幸せを感じる必要もある
貧乏になる必要があり 
金持ちになる必要はない。

歌う必要がある
踊る必要もある
学ぶ必要がある
議論する必要もある
反対する必要があり
多数に流される必要はない。

子どもになる必要がある
大人になる必要もある
愛する必要がある
愛される必要もある
後悔する必要があり
憎しみ続ける必要はない。

自由になる必要がある
不自由になる必要もある
誠実さである必要がある
嘘を付く必要もある
傷つく必要があり
痛みつける必要はない。

あなたは
あなたでいる必要がある
わたしも
わたしでいる必要がある

しかし、
必ずしもそうではない必要がある。

必要は不必要なものだから・・・。








石鹸

泡のような優しさで包み込み
仄かな香りで五感を潤わせ
日々の汚れを落としてくれる
石鹸のような恋人が欲しい。

夕暮れの悲しみも、
明日への
期待も不安も流してくれる恋人。

手のひらに触れる
真っ先にはあなたがいて
手のひらから消える
真っ先にもあなたがいる。

そんな恋人、
いるはずも、出来るはずもないのに。

そうなんだけど・・・
空想するのはいつまでも面白い。
こんな歳になっても、
私の空想の世界は果てしない物語でいっぱいだ。

私は両手の中に石鹸を転がし泡を立てて
匂いを嗅ぐのが大好きだ。

朝、7時。
全力で走り6年間乗り続けた中・高校の通学バス。
バスは教会のある坂道下を左へ曲がり
牛売り場の停留所で止まる。
いつもそこで私はバスに乗った。
バスの扉が開くと乗客(ほとんどが学生)達は
いつものように指で鼻をつまむ。
私はなんとも思わない牛売り場のにおいだが、
乗客達には臭いにおいらしい。
バスに乗ると私はある男を探す。
多分私より2~3歳年上の男だが、
隣へ近付くと爽やかな良い匂いがする。
男の顔はいまいちで、残念なことにニキビだらけ・・・。
なのに、素敵。なぜか・・・。
で、時は流れ・・・・・二十歳の頃、
釜山の国際市場(闇市場)を
ぶらついてたら生活雑貨売り場であの匂いに出逢えたのである。

ニキビ男の匂いだ。

私は笑いが止まらなかった。
その匂いの正体はニキビ専用の石鹸だったのだ。
へぇ・・・・・・・。

毎朝、石鹸で顔を洗い新しい一日を迎える。
石鹸は私にとって大切な欠かせない存在。
石鹸のように、
自分自身、最後まで使い、せめて何か一つ、
キレイに残しておいてなくなりたい。

奴との勝負

後ろから傍に近づく
あいつは嫌な奴。

首筋、背筋が
一瞬にして青ざめる。

陽だまりの空間を塞がり
その面を必要以上に
私の顔面へ被せる。

私の眼球を
舐め転がしているような
奴の細長い切れ目。

相変わらず、光っているぜ・・・
お前は何者だ?

平和のないオレンジ色の宿
ここへ来る者は
自分の足で来たのではない。
上手い話に乗せられ
連れられて来たのだ。

弱い人の
痛いところを突っつき、
銭を稼ぐお前が
私には許せない。

まったく、呆れるぜ!

平和を望む弱者の叫び声、
遅くてもいいから
耳を傾けてちょうだい!

それから
私の後ろから近寄らないでほしい。

後ろからじゃ、
立ち向かえない。

男なら、せめて
前の方から来なさい!
いつでも勝負できるように・・・。

私は、決して逃げない。
私は・・・お前と戦う!

少しの平和を得るために・・・
・・自分自身のためにも。