サーカス

夏休みのある日、
川辺の林へ
蝉を捕りに行った。

運がいい。

待ちに待った
サーカス団が
双子橋の下で
白い天幕を張っていたのだ。

石を拾う振りをしながら
腰を曲げ
仮設小屋へ近づき
そっと中を覗いた。

私は、見た。

団長らしき人の足に蹴られ
口から血を流す
小人を。

芝居の練習でも、
化粧の血でも、
痛そうに蹲る演技でもない。

小人は、
何も言わず
ただただ、
ずっと蹴られ続けていたのだ。


わたしは
ポケットの中から
一番大きい石を取り出し
思いっきり投げた。

そして
勢いよく
林の方へ逃げ出した。

蝉の鳴く林の中で
暗くなるまで
しゃがみこみ、
小人の無事を祈った。


三日後の夕方、双子橋の下、
大音量の唄が流れる天幕の中。

母の手を離さずドキドキしながら
空中ブランコを見ていたら、
吐き気がしてきて
急いで外へ出たものの
そこは獣の臭う裏口であった。

「あいつ、死んでよかったよ。
きっと今頃笑っているかもね・・・
もう、痛い思いしないで済むから・・・」

猛獣使いのお爺さんが
檻の中に向かって、
静かに
誰かに
言っていた。


それから、
二度と
サーカスを
観にいっていない。

旅が好きで
旅する者は、
旅をしているのではない。

愛を
探しているだけなのさ。

歌が好きで
歌う者は、
歌っているのではない。

愛を
確かめているだけなのさ。

詩が好きで
詩を書く者は、
詩を書いているのではない。

愛を
欲深く綴っているだけなのさ。

愛が好きで
愛するものは、
愛しているのではない。

愛を
量り売りしているだけなのさ。

今、
これらを呟く私は、
愛を知る者ではない。

愛を、
答えのない愛を
無駄に見つめているだけなのさ。


無色

日は混沌の色

月は月色

火は火の色

水は水色

木は木の色

金は金色

土は土色

わたしは、

わたし色。

無色を感じ取りたい。

見えない無色、

あなたの、

魂を。

ツツジ

丘を染めるツツジ、
綺麗なグムスンお姉さんの頬色。

丘を染めるツツジ、
腕のないプラスチック人形乳首色。

丘を染めるツツジ、
娼婦宿、窓からもれる怪しげな色。

丘を染めるツツジ、
屋敷の中、ひとりで亡くなった、
友達のワンピース色。
 
丘を染めるツツジ、
孤児院から逃げ出した少女の裸足色。

丘を染めるツツジ、
二度としない捨てた恋の色。

丘を染めるツツジ、
父、母眠るお墓、優しく包む色。

丘を染めるツツジ、
帰らぬ故郷、懐かしい色。

丘を染めるツツジ、
儚い人生を知るイリュージョン色。

願い

こころを乱すこころを
消せることなど出来ません。
せめて減りますように。

精神を蝕む傾いた思考が
回復する見込みはありません。
せめて軽く済みますように。

一言の多い、いらない言葉が
毎日口からこぼれています。

無駄な喜びを作り上げ、
心地の悪い笑い声を出しています。

本当の自分をまだ知りません。
逢える日を望んでもいません。

探し続けているわけでもありません。

しかし
願っているのです。

軽いけれども、
何にも飛ばされない存在でありたいと・・・。

そして
野原の動物達のように
誰にも、
何かを、
願わない存在でありたいと・・・。







ジェルソミーナ

















(写真はクリス・ウィーガンド著の中から)




フェデリコ・フェリーニ監督映画「道」。
何度観ても泣けてきます。

ジェルソミーナは天使そのもの。
愛の象徴です。




春ですね

















かもめが、
います。

今日、
かもめに逢いました。

カラスは
黒い艶を
垂らしながら
急いで
かもめの下を
飛んでいきました。

わたしは
雲の
切れ目の光に
胸騒ぎを感じながら
豊平橋を渡りました。

何度も
足を止め、
理由もなく
後ろを振り向きながら・・・。

川のせせらぎでしょうか?!

「春ですね。」

やさしい声がどこからか聴こえてきました。

ふたりで・・・・

次は
わたしの番、
次も
わたしの番。

ひとり綾取りは
上手になればなるほど、
飽きてしまうのです。

次は
わたしの番、
その次も
わたしの番。

ひとりしりとりは
長く続けば続くほど、
つまらないのです。

次は
わたしの番、
この次も
わたしの番。

ひとり鬼ごっこは
遠く逃げれば逃げるほど、
捕まってしまうのです。

ずっと、私の番
・・・・・
ひとり人生ゲームは
サイコロを振れば振るほど、
希望が薄れていくのです。

ひとりでは

何事も

せつないのです。


この時代

この時代には
わかりやすいことがほとんどない。

無知のわたしは疲れた。

解読する為に作られた、
第二の神経が、
いまにでも壊れそう。
いい加減に、
見栄を張る安い知性を
脱ぎ捨てるべきだ。

何がしたいのか、
何を見ているのか、
何を書いているのか、
何を、愛しているのか・・・・・・
純粋な眼差しで自分に問いたい。

わたしの時代を、
わかりやすく、
一歩、一歩、あるくのみ。自分の力で。

この時代に背を向けられても、
わたしの時代はいつもわたしと一緒。

寂しくない・・・・・・。


夜に・・・

わたしが
生まれた夜、
家の前の川では
白い月が流れていた。
とても、
静かなうつくしい夜であった。

わたしが
独りになった夜、
故郷の空に住む星たちは
慌てて引越しをした。
とても、
寂しくかなしい夜であった。

わたしが
旅に出かける夜、
線路の片隅に
赤いハイヒールが捨てられていた。
とても、
綺麗でこわい夜であった。

わたしが
海辺を歩いた夜、
一羽の傷付いたかもめが
小さな声で泣いていた。
とても、
自分とそっくりな姿を目にした夜であった。

わたしが
男に出逢えた夜、
路地裏、酒場には
萎れた薔薇一輪咲いていた。
とても、
素敵な忘れられない夜であった。

ねぇ!わたしの話はもういいでしょう?
次は、
あなたの話を聞かせて・・・もちろん、夜の話よ!

答えは?

脆い脳みそ、
鈍る感覚で
何を語ろうとしている?

大量に
流れ出す胃液、
次は、何を溶かしている?

重い瞼吊り上げ、
濁る瞳で
何を夢見ている?

雑念に
散らかされたこころで、
何を考えている?

何を、
何を・・・・・。

答えは
知っているよね!

その答えの
正解は?

・・・・・・・・。

言葉の中で溺れ、
言葉を汚したくない。

こころから、
言葉を愛したい。

それなのに、
出来ない。

海よりしょっぱい言葉の涙に
こころを錆びらせてしまったのだから。

女の子


































大人の、
不自然な斜めのポーズ。
子どもの、
正面を見つめる不思議な表情。

あの頃の子どもらは
今は大人になりました。

今・・・何処を見つめているのでしょうかね・・・・・。

エゴイズム

全てを捨てられる愛。

親友さえ、
父さえ、母さえ、
兄弟さえ。
 
全てを捨てられる愛。

自由さえ、
人生さえ、祖国さえ
命さえ。

全てを捨てられる愛。

魂さえ、
善しさえ、悪しさえ
世間の目さえ。

憧れる・・・・・。


人は、
自分のためだけに愛する。

自分へ捧げるために。

私、
そう思う・・・・・。