脱出

私は
無意味な夢を見るんだ。

そして
その
無意味な夢を
お腹がいっぱいになるまで
食べるんだ。

苦い!
薬草よりも苦いんだ!

人生の儚み
愛の憐れみ
心の歪み
言葉の苦しみ・・・

これらが
私の
夢の中で
毎晩
騒ぎ出しているんだ。

毎晩、
私を
殺したり
生き返らせたりしているんだ。

私は
無意味な夢を
昨夜も見ったんだ

・・・・・
わかっているの。

夢は
現実だということを・・・

見える意味が怖くて
伝わる意味が痛くて
逃げているの。

ああ、
神様!
愛を
心を
私から
持って行かないでください。




みかん三個

これ
食べると
風邪が
治るから・・・

これ
あげるから
家に帰ったら
必ず
食べてね!

そして
明日
また
ここに
おいでね!

待ってるから・・・・・

私に
みかんをくれた人は
私の
名前も
顔も
知らないはず

それなのに
明日
会えることを
知っている。

「これ、
食べてね!」

・・・頂きました。


究極の幸福

元の所から
何一つ
持たずに、
元へ向かって
生まれました。

成長への
道のりは長く
険しく
くねくねと曲がり、
三歩進んでは
四歩下がる不思議な
道のりです。

ここに
今、
私はいます。

ここにいる私は
何千歩も
下がったまま
横たわっています。

元の
所を
少しでも知りたくて
すべての
エネルギーを
逆戻りにしてみました。

懐かしいです・・・・・

父と母が
縁側に座り
白い光を浴びながら
食事をしているのです。

ニワトリも
ヤギも
イヌも
食事をしているのです。

私はというと
棗の木の一番低い枝に座り
皆の姿を眺めています。

質素な暮らしでの
何とも言えない平和、
何とも言えない幸福、
そして
土のような静かな愛・・・。

そこに、
派手なものは
何一つないです。

強く主張し合えるものも
何一つないのです。

私は
小さな棗の実を
一つ採り
口の中へ入れました。

そして、
不思議な道のりへ
再び
戻ってきました。

嬉しいです・・・・・

このままでいいと思える
私の下がったままの
道のりが。

先の見えない元へ
ゆっくりと歩めるのは
私なりの
成長する愛への
素質な生への
魂の情熱かもしれません。

何度も
私に幸福の道を
教えてくれる
亡き父母に
今日も感謝します。


成熟した人間

わたしは
今の
この瞬間の
わたししか知らない。

自分のことを
具体的に
他人に
自分に
説明できない。

もし、
いつか
成熟した人間に
なるとしたら
自分を
他人を
こころから
愛せることができるだろう。

成熟した人間に
なる為に
こころを
育てたい。

自然の中での
一つの生き物として
自然の
はかり知れない愛と
とんでもなく痛い鞭を
こころに
魂に
刻みたい。

こころの未熟な
わたしは
この瞬間の
重さだけで
精いっぱい。

実に
脆い未熟児である。





遠い世界で美しく咲いている彼女へ

見えないけれど
確かに
あります

あることを
知っているので
私は
見ようとしないです

あなたは
私を
見ようとしています

一度も
会ったことがないのに、
前から
後ろから
横から
私を
確かめようとしています

しかし、
決して
あなたの眼には
私が見えないはずです

あなたの
美しい心が
汚れている私を
閉ざしているから・・・・・

お願いです!!

私を
見ようとしないで下さい。

あなたの
苦しむ心が
私には痛いです。

あなたの
花のような
瞳が
いつまでも
輝き続けるのを
心から願います。

私は
・・・・・・
あなただけの色を
心から愛しています。

言葉

私は
心を
伝える為に
言葉が
あると思っていました。

私は
愛を
伝える為に
詩が
あると思っていました。

自分という存在を
あなたという存在へ
繰り返し
繰り返し
伝えていました。

馬鹿です・・・

言葉も
詩も
私も
馬鹿です。

今は
言葉が
この世で
一番怖いです。

そして
人も
怖いです。

愛するあなたは
今日も
無言のまま
あなたの道を
歩んでいます。

こんなにも
せつなく
伝わっているのに
あなたは
いつも
無言のままです。

私は
心の言葉を
消すことにしました。

消した後の
消しくずを
心で溶かし
血管へ
流すことにしました。

はたしで、
私は
変わるのでしょうか・・・・・。





善い人に・・・・・

萎れた黒い花は
もう
花を咲かせません。

自慢気に
咲かせて見せた
季節外れの花びらを
静かに落とす時が
来ました。

哀しいです・・・

香りのない
花です。

哀しいです・・・

気品も色も持たない
花です。

萎れた黒い花は
最初から
花ではありませんでした。

情熱も
愛もない
花は
この先何も
咲かせません。

私は
花でも
情熱の
持ち主でもないです。

哀しいです・・・

片隅に蹲り
愛が泣いています。

今は
ただ
善い人になりたいです。

私ではなく
ただ
善い人になりたいのです。

誰かを
哀しくさせない
善い人になりたいです。

白い過去

白い過去の中には
毎朝母と祈りを捧げる
大きな大きな
木がありました。

祈る私の傍には
ニワトリもいました。

息を吸うと
鼻と喉が痛いほど
寒い冬の朝

目を閉じて祈る
母の頬に
細く
薄く
光るものが
流れました。

何度も
見ました。

私は
祈る振りをしながら
いつものように
ニワトリに
キビをあげました。

そして
母を泣かせる
大きな大きな木を
睨みました。

その瞬間が
いつまでも
いつまでも
消えません。

その瞬間から
離れたいのに
ずっと
私に付いてきます。

だから
私は毎日木を見つめます。

この瞬間の私も
いつかは
白い過去になるのでしょう。

大きな
大きな木は人間を
泣かせるのです。