異邦人




















愛していないのなら
愛されていないのなら
あなたも
わたしも
異邦人。

独りで回る
観覧車から
降りてみましょう。

足の着いた
丸い世界へ立ち
ひたすら浴びてみましょう
打たれてみましょう

命の
あるないすべてへ
平等に
刻まれるのです
宇宙からの
暗黒物質のような
当たり外れのない
避けられない
超越的な力
・・・・・
降り注ぐ愛を
死ぬほど浴びるのです。

愛したいのなら
愛されたいのなら
わたしも
あなたも
異邦人。

この星は
愛する為だけに生まれ
何もかもが
愛に生かされ
歪み縮み膨らむ
不思議な惑星。

愛しているのなら
愛されているのなら
あなたも
わたしも
この星の住人。

あなたはどっち?!

わたしは?・・・

審判




















案山子の頭を
ツバメに
変えよう。

ツバメに変えたら
羽も付けよう。

羽を
付けたら・・・
・・・飛んでいくのかしら・・・。

逆さま




















噴水、
お前は
ここで
何をしている?

夜空を突き刺し
降り注ぐ引力へ
お前の
透明な蕾を引っ張り出し
踊り弾け撃ち返しなさい。

飛び跳ね
宙を舞い、
暇なわたしの
若い恋人達の
視線を集め
混乱する今宵へ
怒り泣き乱れなさい。

派手に
見せびらかしておくれ!
わたしの
代わりに・・・
不自然な都会の
不完全な人間へ。


あんたって
本当に善い娘ね・・・
澄んだ心で
何も言わず
何もかもを
映している。

お見事に映している
逆さまに。

逆さま、
これこそが
世の中
わたしの心模様。

寝室へ入ろう




















足を絡ませ
肩を擦り合い
長い夜を
開いてみましょう。

唇が
渇きだしたら
昨夜残したままの
ウィスキーでも呑みましょう。

髪の毛を枕の奥へ沈ませ
何も見えない天井を見つめましょう。

この空間は
宇宙の何処よりも
うつくしいの。

静かに
伝えましょう
ゆっくりと感じさせましょう

もっともっと知りたい
もっともっと
わかりあいたい。

二人の
夢見る夜明けまで
二人だけの
話す声で
夜を埋めたい。

あたしは
あなたとしたいの。

自然に
心を並べ
正直で
誠実な
話がしたいの。

あなたの
旅の話でも
世間話でも
あたしの
同じ話でも
なんでもいいの。

二人の
夢見る夜明けは
離ればなれ
二人の
夢見る寝室は
いつも遠い。

風景の中




















豊平橋を渡り50メートルほど進むと
いつもこの景色を目にする。

いつも、じっとして眺める。

冬の間は夕方五時頃、
今の時期なら夕方六時過ぎかな。


「今私は北国にいる。
高台の上でも堤防の上でもなく、
今、ここにいる。」と思わせる暮らしの中での
大切な景色なのだ。

人生の儚さを思うようになったあの頃、
私の村は周期的に大洪水に苛まれ多くの人が
悲しみに覆われていた。
我が家は川の堤防の真下だったので他の家よりも
被害が多かった。
泥んこの川にのみこまれ流される人も見たし、
流される家もヤギもブタもイヌも見た。

川の水が引くと
友達を集め川の下流へ行き探した。
しかし、下流には下流があり、
私達はいつか川の終わりのところまで行ってみようと約束をしたが
あまりにも遠く道は途切れあきらめざるを得なかった。

堤防の上、夕暮れの川を眺めながら遠くの向こう、高台で暮らす
街の人々のことを思った。
あの時の風景がいつまでも忘れられない。
何といえばいいのか・・・
変えられない宿命を感じる風景だったのであった。

その後私は頻繁に橋を渡り街へ出かけ迷子のように歩き回り
ドキドキハラハラしながら高台の方から
私の村を眺めた。
堤防に隠しきれないトタン屋根・・・貧しい村、洪水の村、ドヤ街。

ああ~いっそう何もかも残らず流されちまえばいいのに・・・。


私の人生は
昨日も今日も明日も橋を渡っている。
今になっては
変えられない宿命など怖くない。
ありのまま受け入れることにした。
暮らしの中での
自分を埋め込められる愛しい風景に守られ、
気ままにお邪魔しながら
今を生き抜くことにした。

風景の中には誰も知らない明日がある。


第二の男

男のあだ名は
「複製魔王」

鯨と
私の花をあげた男を
殺した男。

鯨と
私だけの花も
殺した男。

島を滅ぼした男。

私の
眠る潜在意識の中、
何かが脳みそを
掻き混ぜる。

両手両足を
鋭い嘴に
括りつけられ
何者かが
私の
左脇腹の奥を貪る。

嗅覚を刺激する
生臭い空気を吸い
ナイフに滴る
赤い液体を見つめ
私は沈んだ。

深い痛み
深い悲しみに落ち
静かに
静かに
沈んだ。

必死で
私を呼び戻す
私の声・・・
私には
届かなかった。

私の知らない
私の住む島が生まれ
何者かに心臓を支配され、
奇妙な花が生まれた。

複製魔王に
摘まれた花は
不揃いに束ねられ
不吉を呼ぶ
罪深き者への
餌食として
投げ出された。

惨めな業を
喜ぶ者が
あちらこちらで
複製魔王の目玉を買い漁る。

素晴らしい
素晴らしい悲しみだ。

私には分かった。

手拍子をあわせ
花を踏み躙り踊る
複製魔王の正体・・・

私には
分かったんだ。

誰かの花Ⅱ




















私だけが
住む島へ
第二の男が
何かを
持って現れた。

それが
何かを知らないまま
私は
それを欲しがっていた。

第二の男は
無色無味の何かを
島の窪みに植えた。

そして
私には見向きもせず
島から消え去った。


私だけの島に
私の花じゃない花が
醜い姿で咲き乱れ
憶えのない
切ない恋唄をうたっていた。

密かに溢れ出す
情欲塗れの
蜜の毒。
隠しきれない
うつくしい汚れを
罵り恥じらった。

私の花じゃない・・・
すべては、
私の花。

何かの
始まりであった。

何かの
終わりであった。

豊平神社の猫

風の強い今日は
遠くまでは歩けないな。
とりあえず、
少し散歩でもしようと出かけた。
偶々豊平神社の前を通ったので
お参りすることに。

運よく神社に住んでいる猫に逢えた。
これで2度目。
小鳥を追いかけて木に登ったり
近くに寄ってきて甘えたり・・・。
猫のふさふさのしっぽには
葉っぱも蟻も付いていて
私のカーディガンには
猫の毛が付いて、なんか嬉しかった。


誰かの花




















私だけが
住む島へ
男は
花を運んできた。

文字を知らない私に
男は絵描き歌を
教えてくれた。

お礼に
私は
鯨をあげた。

私だけが
住む島から
男は
花を持ち去った。

別れを知らない私に
男は脇腹の骨
一本残してくれた。

お礼に
私は
私の花をあげた。

木の姿



帰る・・・
歩いて帰る。
故郷、我が家へ。























耐える・・・
生まれ変わる
その日まで。





















見つめる・・・
自分は何者?
わからん。わからん。

偽りの世

命を買えるんだ
命を売れるんだ。
愛を媚びるんだ
愛を舐めるんだ。
友情を植えるんだ
友情を枯らすんだ。

戦争を買えるんだ
戦争を売れるんだ。
性を媚びるんだ
性を舐めるんだ。
芸術を植えるんだ
芸術を枯らすんだ。


宇宙を買えるんだ
宇宙を売れるんだ。
権力を媚びるんだ
権力を舐めるんだ。
希望を植えるんだ
希望を枯らすんだ。


嘘も
事実も
罪も
許しも
テロも
犠牲も
国も
歴史も
神も
悪魔も
涙も
純情も
買えるんだ。
売れるんだ。

わたしも・・・。

銭で。




有無

うすべにいろ
うすべにいろ
花の乳房。

うすべにいろ
うすべにいろ
恥じらいの唇。

うすべにいろ
うすべにいろ
無罪のリンゴ。

うすべにいろ
うすべにいろ
無罪の原罪。

うすべにいろ
うすべにいろ
微笑みの殺生。

うすべにいろ
うすべにいろ
日陰のミミズ。

うすべにいろ
うすべにいろ
最高のおみやげ。

うすべにいろ
うすべにいろ
永遠の汚れ。

うすべにいろ
うすべにいろ
楽園の沼。

うすべにいろ
うすべにいろ
地獄のオアシス。

うすべにいろ
うすべにいろ
偽善者の愛。

うすべにいろ
うすべにいろ
この世の
一番
うつくしいいろ。

お前の視線




















ゆうべの道は
ゆうべに終わった。

しかし
この先も
ゆうべの続く道。

運命だよ
・・・・・
お前に
出逢ってしまったから。


変わりのない
変化を
この土地で
求めるのは
夢を
枯らすこと。

青函フェリーに
荷物より重い夢を乗せ
波打つ広い世界へ
舵を切った。

新天地をめざす
何気ない哀れみは、
儚い灯りそのもの。

点いては消える
昔からの
ゆうべの続く
お前と俺の運命。

指先でつむぐ
都会の甘い蜜、
偽者なのか
本物なのか
吐き気がするほどむせる。

けして俺は
道端に無礼を
落としたくないが、
いくつかの
暗闇の苦い思い出を
捨てた。

白黒論じない
危なっかしい
本能を泳がし、
不確かな未来への
明るい夢の唄なんか
唄ったりしてさ・・・
・・・・・。


見て見ぬふり、
知らん振り、
お前の視線。

やけに
目に沁みる
やけに
目に沁みる。






あの家




















猫の住んでいる家には
どんな飼い主が住んでいるのかな。

じっと動かないまま、
2階の開いた窓から
私を見つめている。

私もじっと動かないまま、
道の上に立ち止り
あのこを見つめる。

毎日
あの家の前を通っていたけど
あのこに逢えたのは初めて。

一日の楽しみが増えた。
あの家の
窓を見上げる楽しみ・・・
胸がドキドキする。

幸せの手

時々
同じ事を
聞いてくるんだ。

九十五歳の
目の見えないお婆さんが・・・。

「お嬢さん!
幸せなのかい?」

私は
いつも
同じ返事をするんだ。

「・・・よく分かりません。」

お婆さんは
私の手をぎゅっと握り
優しくいうんだ。

「お嬢さんの手がいつも冷たいので
心配なのよ!
早く、幸せになってちょうだい!」

その後、
私は
いつも
同じ事を聞くんだ。

「お婆さん!
幸せな人の手はあったかいですか?」

「うん?・・・
そんなことしらないわ。
私はずっと幸せだけど、手は昔から冷たいのよ!」


お婆さん、幸せなんだ!
よかった・・・。

本当はお婆さんの手、とても温かいんだよ・・・。


何が人の幸せなのか、
その質、基準などどうでもいい。
それぞれの幸せについて
疑問を感じる必要もない。

幸せだ!と言えるお婆さんを見て
私は凄く幸せを感じた。

私の手は相変わらず冷たいけれど、
人の幸せにより心がそっとあったまる。

幸せな人を見るだけで、
幸せな気持ちになれる。

いいね。幸せって。