パン工場

パンを食べた
小麦の匂いがした
牛乳を飲んだ
乳の匂いがした

私は

パン工場で働いた
住む家が無くて、
宿舎のあるパン工場で
一日12時間動いた。
ひたすら載せる、
ひたすら混ぜる、運ぶ
載せる、混ぜる、運ぶ・・・
全身白づくめの私は
私ではなく、
まるで小麦粉のようであった。
ある冬の夜、
何も持たず逃げ出した
本も日記帳も置いて
暗闇の地獄から逃げ出した。
夜が明ける前の
工業団地の色を今でも覚えている
死の灰色を・・・。

パンを食べ終わった
私は
何故か泣いていた
こんな自分が
とても嫌だけど、
何故か泣いてしまった。

蜘蛛の巣

まだ、
光っていた。

まだ
生きていた。

米粒より小さな黒い目は
微かに空を見上げていた。

ガーベラの花びらより小さな体は
ゆっくりもがいていた。

その
となりには死んだ蛾が
落ち葉のようになびいていた。

蜘蛛は
姿を現せないまま、
遠い何処かで笑っているが、
何故か、
とても悲しいそうだ。

糸に絡まる、
北の
冷たい風・・・
糸に絡まる、
小さな命の
儚さ・・・

まだ、
生きていた・・・





詰まっている

叫びたい
雷のように叫びたい
正直に
伝えられない思いを
叫び散らかしたい

泣きたい
波止場にしがみつき
砕けるように泣きたい

人と人の
関係を理解し、
人と人の
関係を受け入れようとしているが、
痛い・・・痛い。



帰る

一つの月
数え切れない星
私の心を照らす光。
一つの名前
数え切れない声
私の心を泣かす思い出。
こんなにも地上は
美しいのに、
こんなにも地上は
優しいのに、
どうして悲しいんだろう・・・
どうして、
胸が痛いんだろう・・・

私は
砂漠の一粒の砂、
オアシスへ運ばれたいと夢見る
無知な壊れた石。
自由に流れる風に憧れ、
思いっきり飛んでみたが
自由に心を切られてしまった。
風が笑う・・・
私を
丸裸にさせて風が高らかに笑う。

一つの国
数え切れない偏見
私の心を閉ざす言語。
一つの私
数え切れない私
私の心を試す私。

こんなにも地上は
広いのに、
こんなにも地上は
生きているのに、
どうして苦しいんだろう・・・
どうして、
息が出来ないんだろう・・・

私は
ごみ箱の紙くず、
希望を乗せた紙飛行機を夢見る
身の程知らずの馬鹿野郎・・・。
分かち合える心に動かされ
全てを放してみだが、
信頼に大切なものを切られてしまった。
心が泣く・・・
私を
丸裸にさせて心が静かに泣く。

一つの愛
一つの友情
一つの夢
一つの詩
一つの道
一つの真実
一つの世
一つの人生・・・
数え切れない間違いと
数え切れない別れを繰り返しながら
私は
私へ帰る。

敵でもあり味方でもある私へ帰る・・・

水平線

細い線一本で
空と海が離れています

細い線一本で
あなたとわたしが別れています

永遠に
交じり合えないのでしょうか。

細い線一本から
赤い火の玉が赤い血を吐き出しています

細い線一本から
昨日と今日が明日を創り上げています

永遠に
繰り返されるのでしょうか。

あ・・・
白いカモメが
くちばしに細い線をくわえ
ゆらゆらと彼方へ飛んでゆきます。

・・・打ち落としましょうか?!
それとも、
見続けましょうか?!



仮想の世界

私は信仰者でも瞑想家でもないが
時々、
私の魂が神様に尋ねるんだ!
「この世に、善良な精神で生きる人間はいますか?!」ってね。
神様は言う
「・・・祈りなさい!私ではない、
あなた自身に祈りなさい!そうすればわかるはず!」
神様は逃げ隠れるのがお仕事!
答えも提案も解決も、
何もしてくれない。
だから、神様なのかな・・・。

私は日々
精神というものを強く意識しながら生きている。
意識しても精神は無意識の領域が深いので自分には
コントロールする事が出来ない。
そう、不可能に近い・・・

しかし
微かに感じる。
精神のささやきを何処からか感じている。
その声は
昔から聴いていた声と同じ・・・孤独の声と似ている。

私は孤独を知っている
一番気の合う友達
母のお腹の中にいた頃から、
子供の頃からの長い付き合い・・・
二人きりの時は
何でも受け入れた。
喜びも悲しみも、明かりも暗闇も。
そして、善とか悪とかは
そもそもこの世には存在していないのだと確信していた。
しかし、
周りに人が増え
見る物が増え
所有が増え
考えが
言葉が増え、
私は説明できない苦しさを味わった。
少しづつ
心を壊した私は、
仮想の世界へ出かけるようになった。

その世界では
心が見えるので言葉がいらない
心が見えることで苦しむ事も争う事もない
その世界では
丸い魂が触れ合えるので傷つける事も
傷つけられる事もない。
生きる喜び、
悲しみの様々な感情表現が孤独と抱き合い踊れる。
そう、
ありとあらゆる全てが抱き合い踊る・・・

その世界の
それらは
愛でも芸術でもない
歌でも詩でもない
偽りのない裸の精神・・・
善良か悪か
美しいのか醜いのかそんな事で揉めない。

今の
現実の世界に
私の仮想の世界を重ね合わせる。
・・・大して変わらない!
わからないが・・・変わらない。

受け入れるか、
受け入れられないか、
その違いだけ・・・。
何を?!
・・・・・今、
その、声を聴いてみる。