鉛筆

鉛筆を持たない生活は考えられない。
今までの人生の中で
他の何より私の手に触れたものは鉛筆。
鉛筆にはいつも癒されている。
そして、救われている。
匂いやら、手で持つ感触やら、
削るときの音、書くときの音まで、
こんなにも
優れて、真っ直ぐな心を持つ鉛筆の存在。
私にとってかけがえのない一番身近な相手。

子どもの頃から鉛筆が好きで、特別な思いを寄せていた。
訳のわからない落書き、意味のある、ない文字を書いては
何とか心を落ちつかせ、寂しさとか不安とかを忘れ
夢を描いたりしたものだ。
本当の気持ちを本当に書けなかったり、
本当の事を書いても消してしまったり、
消しゴムに消されて薄っすらと残された鉛筆の後は
まさに傷の痕と似ていて時が過ぎても忘れられない。

今、娘が学校の宿題をやっている。
ひらがなの文字を書いては消して何度もやり直している姿を
見ていると鉛筆の声が聞こえてくるような気がした。

頑張れ!!ここでとめる、はらう、はねる、そう、良いね!

鉛筆はこの先、娘ににどんな思いを書かせどのような存在に
なって行くのだろうか。
消しゴムに消され、何度も書き続けやり直させる鉛筆の力。

私の鉛筆を持つ手にも力が入る。
鉛筆に感謝を込めて・・・これからもよろしく。





六月の病

ため息が徘徊する夜だった。

真実が遠ざかる夜だった。

苦い喪失感を何とかしたい夜だった。

泣き叫びたいそんな夜だった。

病の再発は、

いつだって六月。

最も弱い自分、最も脆い自分がここにいる。

お願い、

何も、何も聞かないで・・・。

いつものように、

何事もなかったようにしてちょうだい。


愛を確かめようと

手探りのごっこ遊び・・・・・間違いの遊びをするのを

もう、やめましょう。

お願い、

何も、何も言わないで・・・。

林檎の色も、味も知らない

あなたには理解の出来ない病。

虫に喰われた林檎をこれからどうするのか。

捨てるのか、捨てないのか、

あなたしだい、わたししだい。


こんな夜は

日にちの古い新聞紙を広げ爪でも切るが良い。

三日月のような爪。

六月の病を

爪と一緒に切り落とさなくちゃ・・・・・。







夫婦

木でありたいと
思っていました。

嵐が吹いて、
木の枝が一つや二つ折られても
黙って立ち続けていたいと
願っていました。

試練の多い
木でありたいと思っていました。

自然であり、不自然でもある
世の中の厳しい姿を、
無条件に受け入れることは
決して良いとは思いません。
しかし、
受け入れないと分からないのが
我々なのです。

木でありたいと
思っていました。

囀る鳥にも、
つつく鳥にも、虫にも、
同じ気持ちで向き合える
太い芯を持ちたいと
願っていました。

あいだを保つ
木でありたいと思っていました。

目の前の世界が全てでも
全てじゃなくても、
現実から逃げず
身の程を知った上で、
それなりの実を結び、
誰かに、何かに分けあうことができれば
良いと思いました。
しかし、
なりたくてもなれないのが
我々なのです。

夫婦の木に刻まれる年輪は
二人による
一つの成長の証なのです。

一人だけじゃ成長し続けることは
できません

起こりうる様々なことを持ち堪え
常に新しく芽生え続ける
夫婦でありたいです。

そんな木でありたい・・・・・。

今でも、その思いに変わりはないです。

へっこきおじさん

プププ~プ~ブゥン~

えっ!まさか、おならの音?

私の前におじさんらしい人が歩いていた。
かなり近い距離で・・・。
後姿からすると60代位かな。

大きなおならの音を鳴らし
おならの音に足を合わせ
普通に歩いて行くおじさん。

周りを全然気にせずプププの連発です。

私はとりあえず、息を止めました。
向かい風だったので・・・。

おじさんの顔を見てみたい。
おじさんを追い越して少し歩いた後、
さりげなく振り向いて顔をみました。
なんと、同じマンションの住人です。
なるほど・・・だから、おじさんと私、先から同じ道を
歩いた訳ですね。
このままだと一緒にエレベーターに乗るかも・・・。
避けたいですね、何としても。

あのおじさん、普段からよく見かけるのです。
おとといは郵便局で会いました。

しかし、おならを聞いたのは今日がはじめてなんです。

そりゃ、そうですよね!
私、何を言っているのか・・・。

へっこきおじさんの顔は厚いです。
あの厚い顔からは、読み取れる何かがありますね。
表情がないような、怒っているような、
もしかしたら、とても優しい人かもしれないし・・・。

実は私も人前で、思わず無礼におならをして冷や汗を
掻いたことがあります。
それも身内の前じゃなく・・・もう、その恥ずかしさは、
一生忘れません。

寝ているとき、たまに、家族の誰かの
おならの音が聞こえるんです。
いとおしいですね。
おならも、その人も。

へっこきおじさんの屁は笑えませんでした。
ただ、色んな人がいるな~と思いました。

あぁ・・・

はぁ~ため息がでる。
止まらない。
信頼を裏切ってしまった。
何て軽率な私・・・。
こんな自分が嫌だ。はぁ~
自分、
善き人ふりを、いい加減やめたらどうだ!

ごめんなさい!!

ひとつだけ

植物とのお別れは切ない。

ピカピカのアロちゃんが我が家に来たのは3年前。
毎日顔をあわせていたのに、今はもういない。

ごめんなさい!

よほど環境が悪かったのかな。
アロエの最後の姿はやせこけていた。


大切なものはひとつだけでいい。

寂しさを埋めようと、

あれもこれも所有すればするほど

増していく寂しさ。

何もアロちゃんのかわりにはなれない。

名前の知らない新しい植物達が悲しそうに

私を見ている。

おびえているのかな!

大丈夫・・・多分、大丈夫だよ。

悪い環境に気づいたら変えればいい。

変えないと、何も変わらないよね。

今回改めて思った。

ひとつなくして、それ以上を手に

入れようと執着している自分の欲深さを。

醜い動物だね・・・。

一つだけでいい。
ひとつだけ。 

月は何処に

月が無い。

冬の月は
あの空の扉を開けて
しつこく話をかけてきたのに
今は雲隠れ。

もう、嫌になったの? 私のこと・・・。

顔も見せてくれない。
声も聞かせてくれない。

夏の夜が短いのは私のせいね。

いいのよ、それで。
本当に それでいいの。

私のことが嫌いになっても、
私のことは忘れないでね。

生まれてから、一度も
愛された覚えが無いので、
今更落ち込んだりしないの。

私は平気。

でもね、
忘れ去られるのはとても悲しいの。



花の名前はミットナイトムーン。
月の代わりにみつめています。




伝言

昨夜

忍び足で出没した くノ一からの伝言。

突然すぎて びっくりしましたね。

胸に沁みるお言葉、そして 

秘密の処方術、

ありがとうございました。


「○○○の知らない ○○○がいるのだから 、

○○○の知らない ○○○がいても良いのです」。


さぁ、あなたなら

○○○に 何を当てはめますか?!

父の日

父さんが生きていたら、今年で90歳。

お父さんのことが大好きだった。


お父さん、ありがとうございます!

お父さんの娘で、本当によかった。

雑草

誰かが草刈をしていた。

立派に伸び続けている、

自立心の強い雑草。

あんなにも生命力の強いものが

他にもあるんだろうか。


余地無く、無惨に切られ

積み重なって倒れている萎びた体。

燦々たる陽光が彼らを枯らしていた。

始まりの匂いなのか、

終わりの匂いなのか。

鼻を刺激する青臭い、雑草の体臭。


雑草の死を追悼しているんだろうか!

ぽつんと立っている、

細い体の赤つめ草が泣いていた。


笑い声が聞こえてきた。

土の中から聞こえてきた。

「髭剃りに蒸しタオルマッサージ!
相変わらず気持ちが良いな・・・
これで、また、頑張れるぞ、へへへ」。

根こそぎ抜かれても

生き延び続ける図太さ。

凄いね、雑草。

こめんなさいね、皆さん!

それぞれちゃんとした名前があるのに、

雑草と呼び捨てて・・・。


あゆちゃん

友たちが私の家に遊びに来たよ。

初夏のカモミールのように

白い微笑みをうかべて。

嬉しかったよ。

日々の悩み事、

日々の暮らしの事など

沢山お話をしたよ。

懐かしい映画、

好きな映画の話もしたよ。

とこか、二人は、似ているね!

だって、友たちだもん。


あゆちゃん、

そのままでいいからね!

強くならなくていいからね!


友たちが帰ったよ。

特別な用事が無くても、

特別なお話が無くても、

暇じゃないのに、

わざわざ、私に会いに来たんだよ。

嬉しかったよ。

私も、誰かに、そんな友たちになりたいな。

恥ずかしいね。

私はいつも遠慮してばかり・・・。

自分から、

友たちへ会いに行かないとね・・・・・・。


昔から、私は
お花のカモミールが好きですね。
花言葉も。
友たちのあゆちゃんはカモミールのような人です。
彼女の事をよく知っているわけではないが、
知らなくてもいいと思っています。
すちゃんも、まゆちゃんもそうですね。
好きな男より、好きな友たちの方が好きです。
何度も友たちの事を書いていますが、
書いても書いても物足りないのです。
待ち続ける案山子だからです。
友たちを待ち続けては駄目ですね。
よく分かりませんが、
友たちって、凄く凄く大切な存在のような気がします。

当たり前なんですけどね・・・。



パーマ&カット

病院での検査を終え、家に帰る途中だった。
横断歩道の信号待ちをしていると、
美容室の看板が目に入った。

パーマかけたいな~
よし、入ろう!

15年ぶりパーマをかけてみると・・・面白い顔・・・。
こんなふうに変わるとは想像もしなかった。
予想と違いすぎて思わず笑ってしまった。

まるで、オーケストラの指揮者のようなスタイル。
短くて細い棒がとても似合いそう。

とりあえず、急いで自転車に乗り家に戻った。
ハァ~どうしよう、いつも、髪を結んでいたので
パーマで膨れ上がった頭がすっごく邪魔!!

迷わずハサミを取り出し、気ままに髪を切った。
今まで私は、自分の髪は自分で切っていたので、
失敗への恐れは一切無い。
時代の流行のスタイルとは無縁で、その上、
女磨きの努力を疎かにしてた私。
歳のせいかな、外面と内面のバランスが、ほんの少しだけでも
取れたらいいなと思っている。

それにしても、自分の髪を自分の手で切るのは気持ちがいい。
今日は特に気持ちがいい。
随分短くなったけど、パーマをかけたおかげで、
下手さが目立たないですんだ。

ちなみに、
美容室に入り、椅子に座ったとたん、自律神経の乱れによる
瞼の痙攣が起きた。
参ったな、汗も出るし・・・

大きな鏡の前、男の美容師さん二人が
丁寧に私の髪を巻いていた。
あ~もう、帰りたい!
後悔したけど、もう遅い。
何故こんなに緊張してしまうのかな・・・。

これから、多分、美容室には二度と行かないだろう。



白髪の男

白髪の男を知っている。

何も知らないのに、知っている。

いつもの夕暮れ、

橋の向こうから現れて、

静かに私の傍を通り過ぎる男。
 
すれ違うとき、

互いに目が合った。

胸に突き刺さるうつくしい痛み。

男の瞳がきれいに透けて見える。

人の、世の濁りを

代わりに払っている男。

孤独を抱えて、

死ぬまで尽くす限りなき男。


白髪の男を知っている。

何も知らないのに、何となく知っている。

雨の日も 雪の日も、

白髪の男は傘も差さず、

橋の上を歩いている。

すれ違うとき、

互に目が合った。

男は私に近づいてきて、こう言った。

「お互いの事、何も知らないけど
君と僕はずっと前から友達」。

私の手にくちづけする白髪の男。

優しい温もりが体中に伝わる。


白髪の男を知っている。

彼は犬であり、彼は友達でもある。




労働

アルベール・カミュは、

「労働なくしては、人間はことごとく腐ってしまう。
だが魂なき労働は、人生を窒息死させてしまう」
と、言っている。

単純に考えてみると、生きていく為には
労働は、必然的なこと。

様々な理由で人は働き、様々な環境の中で
好きでも、嫌いでも働かざるを得ない。

遣り甲斐も生き甲斐も感じず、幸福も不幸も感じず
機械のように働く人もいれば、衣・食・住に苦しみながらも、
大切な誰かと僅かな幸せを共有しながら働く人もいる。
家事をやる妻も、働く夫も、子供までが、
立派な労働者だと思う。が、

カミュの言葉を何度も繰り返し読み、
今の自分に問う。

今の私は魂のある労働をしているのか?!

本当のことを言うと、このような下手な文章を書いていて、
家計には何の助けにもなっていないが、
何故だろう・・・書き始めてから今まで感じたことのない
非常によい疲れ、溜まらない疲れを日々感じている。
以前、病院清掃の仕事をしていた時も感じてはいたが、
今程ではない。

誰よりも自分自身がよく分かっている。
何がやりたかったのかを・・・。
今の厳しい現実の中でやるべきことへ入り込むのは
なかなか出来ないと言うか、勇気がなかった。
しかし、
偶々ではなく、やらなきゃいけない時が来たような気がしてならない。
贅沢な時間を過ごしている気がして、
時々空に向かって手を合わせお詫びをしては、
また何かを書き始める。

うまく言えないが、書くことに義務感と怖さを感じでいる。

労働する魂の喜び、労働する魂の苦しみが人生をどのように
導いてくれるのかは分からない。

人生における、人それぞれの望む豊かさは千差万別。
自分で自分を窒息させない為に生きていくのは簡単なことでもあり
難しいことでもある。

腐るか、窒息死するか・・・・・。

死んだら腐るし、腐ると死ぬ。
死んだら息も止まるし、息が止まれば死んでしまう。

生きている内に、生きていたい。



昨日の夢Ⅱ

また、恐ろしい海が広がっていた。
何度も夢の中に現れる海。
崖の上から眺めているはずなのに、足元のすぐ前に海がある。
波もなく、むしろ穏やかだが、川のように流れている。
海なのに・・・。
昨夜の海は黒に近い濃い灰色で、
夢の登場人物が変わるたび、海も色を変えた。

ずっと、立ち続けている私を横切って
見知らぬ人たちが海の上を走り去って行く。
不思議だが、夢の中の私は不思議だと思っていないらしい。
ここからが怖い。確かに海の上には道があるが、
全く目には見えない。
道の幅も長さもわからず、皆がわあぁ~!と、叫びながら走り出す。
なので、先まで潔く走っていた人たちが突然海の中へ消えてしまう。
いわゆる、テレビのドッキリ番組でよくやる、
地面を掘り「落とし穴」へ落とすのとよく似ている。

一人残された私は迷っていた。
私も、あの海の上を走らなきゃいけないのか・・・。
でも、怖い。あの沼のような黒い海へ落ちたくないな・・・。

気がついたら、いつの間にか崖の裏を彷徨いながら歩いていた。
坂道が現れ、周りを見回しながら上ると、
素朴な木造の家が立ち並んでいて、
長い髪のアメリカ先住民のような人達が、植物の手入れをしていた。
誰だろう・・・一人の男が私に何かを言う。何語かわからないが、
後ろを見て見なさい!
と、言っている気がして、後ろを振り向くと、
先の黒い海が目に入った。しかし、海が、海が凄く小さい。
げっ!!どういう事?!
海の縦、横幅が、三十センチ位しかない。
まるで額縁に収まっているみたい。
しかもそれ以外六つの海が横に並んでいる。
まさに、三次元の世界!!
七つ目の30センチの海の中から、体の半分をこちの方に
はみ出して何かをぶつぶつ言いながら、
手で海をかき混ぜている人がいる。

神様ではないのは確かだが、神業ではある。

バカみたいな夢の内容だが、夢から目が覚めても笑えない私であった。
覚えている怖い夢ベスト10に入る位怖かった。





操り人形の砂時計

急かさないで、
そんなに急かすと後が無いよ。

物語を作っている最中なの。
だから、少しはゆっくりしててくれない?

急かさないで、
そんなに急かすと取り返しがつかないよ。

「物語は終わる為にある」
そんな事、私も分かっている。

運命を愛するように、
私なりに努力しているの。

私の為とはいえ、
見向きもせず、私をおいて行くのね。

どうすれば、あなたを、
裏切る事が出来るのかしら。

物語の主人公になりきれないまま、
埋もれたくないの。

瞬く間に埋もれて、消えて行きたくないの。

透明な優しさでむちを振るあなたが怖い。
私はあなたの操り人形のよう。

やっと私は気づいたの。
あなたの正体をね!

脆い私を閉じ込め、面白そうに
ひっくり返しては、物語を狂わせるあなた。

これ以上、あなたのおもちゃにはなりたくないの。

急がなくちゃ、
蓋を開け、ここから抜け出さなくちゃ。
何とか、出て行けそうだわ、
この、砂時計から。

誰かしら?
力強く蓋を抑え硝子の中を覗く者がいるの。

あぁ、あなたは・・・・・私そっくりの、操り人形。



なかなか

なかなか知的で、似合いますね!


いつも使っているノートの上に眼鏡を置いたら、こんな顔になりました。

それは


ゆっくり、ゆっくりと漕いで行く。

絶えそうで絶えない白い意識。

消えそうで消えない黒い意識。

それらを乗せて、

船は、ある宇宙の何処かを漕いで行く。


断片的な記憶が隕石のように現れ、

白黒の意識の底へ突き当たり船を沈ませた。

浮き上がる意識達は果てしない空間を

迷子のように彷徨い続け、ある時に

ぱらぱら、ぱらぱらと落ちて来る。


一枚の、薄い白黒の痕跡には、

儚くも、うつくしい真の意識が隠されていて

記憶の断片が蘇生し始め、

今の私に問いかけてくる。

「その後、どうなったんだ?」

・・・・・・・・。

艶艶しい白黒写真。

艶と光っている目の主。

無気力な私を叩き起こし

静かに再生させ、浄化させては、

何ことも無く消えて行く。


ゆっくり、ゆっくりと漕いで行く。

そしてまた、ゆっくり、ゆっくりと沈んで行く。


森山大道が写した野良犬や野良猫が私を見つめている。

沈む船から何かをくわえ、ぱらぱらと落としていた。

それは、私の、

白黒の一枚の写真であった。


※森山大道は日本の写真家。


表現

あなたには、表現したい何かがありますか?

あるとしたら、

それは、形のあるものですか?形のないものですか?

それを、誰かに伝える事は簡単なことですか?

もし、難しいと思うのなら、その理由は何故だと思いますか?

あなたは現実の中で何を重視し、それらを表現することで

何を望んでいますか?

愛ですか?自己満足ですか?生の証ですか?

あなたにしか聞けないのです。

あなたは常に存在しているのに、姿が見えない。

わたしを支配している脳は

時々間違いを繰り返し、傲慢に陥り、腐りがけの思想などを

あなたに被せ、その上、あなたを戒めているのです。

あなたには申し訳ないが、

あなたへの逃げ道がないと、私は生きていけません。

ですので、「心」 と言うあなたにしか聞けないのです。

自分自身の何を表現したいのですか?

今までの支配人、つまりわたしを示す矛盾だらけのがらくたを

表現したいのなら、どうぞ喜んでお手伝いします。

その代わりに、

全てを表現し続けてください。

生の無が、惨めな有にならないように、

生の本性が、無になり終わるように表現し続けてください。

しかしながら、不思議です。

あなたは常に私の中にいるのに、姿が見えてこない。


もしかしたら、

わたしを支配していたのは、あなたかもしれないですね・・・。




わからない


街の灯りが恋しくて橋を渡った。

橋より長い日暮れの裾を踏みながら、

慎ましい足取りで、

人通りの少ない裏道へ入った。

千歳鶴近くの酒屋の男達が

立派な腕をむき出して

トラックに酒を積み上げていた。

酒は、街に集う誰かと誰かの喉を潤し、

賑わい、歌い、口論し、慰めては

出会いと別れ、そして誘惑の

乾杯へ消えて行くだろう。

街が見えて来た。

私に、「お前、何しに来たんだ?」と聞いている。

わからない・・・。

街が嘲るように言う。

「もう、帰れよ!お前に用何かないよ」

・・・・・・・。

私は踵を返して川へ行くことにした。

薄暗い空き地へ暮らすたんぽぽ達に出会い、

しばらく話を交わしていると

うっすらと光が目に入った。

丁度いい距離を置いて私を観察する野良猫。

あなたの視線だったのね・・・。

野良猫が静かに、私に聞く。

「あなた、何者?」

わからない・・・。

「あなた、弱い人ね!私を見つめるあなたの目がそう言っている」

・・・・・・・。

私はまた、踵を返して橋を渡った。

流れる川は街燈に照らされ

投げ捨てられた世の汚れを拾い洗っていた。

黒ずみの物体、細長い影が

私を付きまとう。

それは自分自身なのか?

わからない・・・・・。

私は誰なのか?

わからない、わからない。








よく転ぶ娘

昨日の午後過ぎ、娘に傘を届けに行った。
朝、天気もよく、雨が降ると思わなかったのに
お昼頃から雷と共に降り出す強い雨。
急いで学校まで娘を迎えに行く途中、向こうから娘が
雨にびしょぬれながら走ってくる姿が見えた。

しかし、何か変・・・娘は両手を合わせて、まるで祈る人みたいな姿勢で
俯いたまま走ってくる。
傘を差している私に気付いてない娘、えっ!!・・・・・
娘の顔が血だらけ!!やっと私に気付いた娘は
思わず大声を出して泣きだす。
左の方のおでこと、頬、手に大きな擦り傷、
鼻水と雨に混ざって血が流れている。
私は慌てて血を拭き、娘の話を聞いた。
校門の近くで、後ろから来る友達に声を掛けられ振り向いた時、
少し窪みのある地面に足が引っかかりバランスを崩したらしい。

普段からよく転ぶ娘。 まあ~それにしても派手に転んだな!

家に着いて傷口を消毒し薬をつけパッドを貼ってあげた。
すると、鏡の前に立ち自分の姿を見ながら泣く。
先までは泣くのも収まり、ペロペロとアイスクリームをなめていたのに・・・。
勿論痛いと思うが、そんな娘の姿が可愛く、面白くて私は笑った。
そしたら、娘も笑う。二人で笑う。可笑しいね・・・。

夕方、市内の病院に入院している
甥っ子のお見舞いに行く予定だったので、
夫の母とお兄さんに会い病院へ行くと甥っ子より娘が目立つ。

甥っ子からもらったスイカを食べながら娘は転んだ話や傷の話を
自慢げに言っている。
もはや誰が病人なのか分からなくなった。

今朝、相変わらず楽しいそうに学校へ行く娘。

沢山転んで、沢山遊んで、沢山笑って、大きく成長してちょうだいね!。



 

一日

朝が来て昼が来て夜が来る。

夜が来て夜明けが来て朝が来る。

鳥が起きて私が起きて子どもが起きる。

一日の始まり、私達の始まり

一日の笑顔の分だけ幸せを貰い、

一日の頑張った分だけご飯を頂き、

一日の仕えた分だけ安らぎを取り、

一日の終わりに愛を告げる。


朝が過ぎて昼が過ぎて夜が過ぎる。

夜が過ぎて夜明けが過ぎて朝が来る。

お日様の顔は真ん丸い仏顔。

青空の心は広い心。

私達の朝はさらさら真っ白。

一日の始まり、新しい始まり

一日の善意を自慢せず、

一日の怠りを見逃さず、

一日の我慢を苦とせず、

一日の終わりに感謝を告げる。


一日の始まりは、生まれ変わる日でもある。
新しい毎日の心構え、
自分自身に少しでも、恥をかけない様に
一日を迎えられたい。





 

ラジオを点けると

私が中学生になるまで家にはテレビが無かった。
当時、テレビを持っていない家は、貧乏である事ではあったが、
そんなに嫌ではなかった。
いつも傍にラジオがあったから。

避難民を思わせる最小限の衣・食・住の生活
そんな暮らしが恥ずかしいと気付いたのは12才の頃。

仲のいい同じクラスメイトの友達から
誕生日パーティーに招待され家を訪ねると
立派な金持ちの屋敷で、お手伝いさんまでいたのでびっくりした。
ソファーに座ったのも初めて、ケーキを食べたのも初めて、
カラーテレビを見たのも初めて、何より驚いたのは電気蓄音機。
倒れそうになった私を友達のお母さんが支えてくれた。
予想もしていない別世界を目にして、
段々具合が悪くなり次の日、学校を休んだ。

ちなみに、私からの誕生日プレゼントは凄く恥ずかしいが、
紙に書いたおかしな詩、
それから母さんから持たされた、畑で取れたとうもろこし、だった。

子どもの時からラジオをよく聴いていた。
深夜を過ぎても布団の中でラジオを抱きしめ、流れる音楽を聴いた。
そして泣きながら眠った。
あのころラジオでよく流れたのはポール・モーリアオーケストラの映画音楽。
気に入った映画音楽をメモって、いつかその映画を観るのを夢見ていた。

ラジオを点けると空想の世界が次から次へと広がり、
その世界はうつくしく、そこにいる私もまたうつくしい姿。
まさに夢のパラダイス。

ラジオからテレビ、CDプレーヤー、そしてパソコン。
知る事、見る事が増えれば増えるほど、
私の聴き取る感覚の機能が
鈍くなっていくような気がしてきた。
一時的な満足感を与え、排せつ物のように私から抜けて行く
情報や知ったかぶりの知識、毎回分かっていながらもあれこれと、
パソコンで検索しては何か虚しくなる自分と対面する。
知りたかった事を、知ったときのうれしさが麻痺していく感じ
知りたくなかった事を知ったときの怒りへの後悔。

ラジオを点けると、自然に広がった空想の世界。
そこには夢があったかもね~。

そもそもパソコンにこんな書き込みをする事自体がおかしい。
色々とパソコンにはお世話になっているので、
これからも良きパートナーでありたい。
そして、たまにはラジオを点けて失いつつある世界へ行ってみたい。

 

片目

眠る屋根の上に、
今宵も現れました。

ある日は、細い白い目で、
ある日は、尖った黄色の目で、
ある日は、丸い赤い目で、
やさしい光を伝えてくれるあなた。

長いお付き合いだったのに
こんなにも遅く気付くなんて・・・。
初めて知りました。 
まさか、そんな過去があるとは・・・。

だから、海へ砂漠へ氷山へ行ったのですね。

無くした片目を探しているあなた!

つらいけど思い出して下さい。

何処の海に飲み込まれたのか、
何処の砂漠に落とされたのか、
何処の誰かに奪われたのか、
思い出して下さい。

今まで私の目に映ったのは目。
あなたの片目。

だから、いつも悲しいそうに私を
見つめていたのですね。

そのままの姿があなたの全てだとは思いませんが、
そのままのあなたが大好きでした。

力になれるのなら
一緒に探して見ませんか?

両方の目が同じだとは限らないので
教えてください。

あなたの片目は、
あなたの片目と同じですか?

もし見つかったら
きっと、この夜は明るいでしょうね・・・。

しかしながら
私の本音は永遠にあなたの無くした片目が
見つからないで欲しいです。

何故なら、
私にとってあなたは「月」だからです。

もし見つかったら
きっと、この夜は明るいでしょうね・・・。

片目を探しているあなた!
片目を取り戻すと、
きっとあなたも、私も
彷徨う事を忘れてしまうのでしょう。

それは、実に寂しい事です。