いつか・・・

















町田康の本、「猫とあほんだら」からの写真です。

捨て猫
野良猫
拾い猫・・・
悲惨に虐待されなくなる猫たち。

世の中は不平等です。

それが世の中だ!と言うのなら
そこまでです。

何が大事なんでしょうか!

追い越す必要も
取り残される心配も
私にはありません。

ただ、恐れているのは
見て見ぬふりをすること。

不条理な世間で
損するのは、立ち向かうのは
いつも
見て見ぬふりが出来ない人たちですかね。

我々が捨てる様々な命は
何処へ消えていくのでしょうか。

黙々と、
小さな命をわが子のように
見守る沢山の方々に敬愛を現します。

いつか
出会えるかもしれない、
いや、特に出会ったかもしれないのに
触れないように見過ごしているかも・・・。

いつか
見て見ぬふりしない、出来ない、
そんな人間になりたいですね。

黒猫~白い主














古代エジプトの壁画が
銀の扉に描かれていた。

秘密のおまじないを唱える・・・。

謎の空間が現れ、
不思議な瞬間移動が始まった。

満月の引力により
招かれた九階の門には、
漢字の表札が掛けられていた。

疲れた素足を
湧き水の中にそっと入れてみた。

あ!安らぐ・・・これ以上何を望む?!

丁寧にお出迎えしてくれたのは
静かな足取りの黒猫、
そして、白い主。

猫だ・・・黒猫だ。

ここには、
黒猫が住んでいる。

声のない使者の呼び寄せを
心で読み取る時がある。
それは、滅多にない事だ。

弱くて、濁った魂を
洗わせてくれてありがとう!

やはり、
猫は神のお使いだ。

やはり、
私は、いつまでも
猫に救われているのだ。

素敵な時間を
ありがとうございます。

秘密のおまじないを
教えてくれた白い主よ、
君に幸あれ!!!

Be Bop A Lula、寂しい夜でも

ビー・バップ・ア・ルーラ
泣きだしそうな
夜のロックンロール。

小銭を数える仕草は
やめてちょうだい。
缶コーヒーの中、
吸殻の劇薬呑むのも
やめときなよ。

突っ張るなら、
とことん突っ張ってちょうだい。

じめじめした真夏が
ぶっ飛んでいくくらい。

しがない女には見る目が
あるのかしら?
ないのかしら?

散々泣かせてもらったわ。
煤だらけの煙突の中で。

お気に入りの髪飾りを
置き忘れて来るんじゃなかった。

女を飲み食いするのなら
利子付きの代金を払いなさい。

いい歳した男なら
十代のクソガキの
真似はおやめ。

適当な脂肪を揺らして
裸のままで突撃してちょうだい。

ルーツのある本性なら
獲物を誘き寄せる必要はないわ。

しかし、
ロックンロールを舐めると
右折ばっかりの渦巻き人生よ!

まぁ、恐ろしい・・・・。

しっかり刻んで
どっしりと構えて
たっぷり浸かるのよ。

あなたは、
ビー・バップ・ア・ルーラなんだから・・・。
ビー・バップ・ア・ルーラ。

挫けそうな私は
ビー・バップ・ア・ルーラ
寂しい夜。

偉そうに言っているけど
実は私、
口がきけない女なの。

まぁ、恐ろしい女よね・・・・・。

灰色の午後

裏側に隠した、
貧弱なこころの塊。

抵抗している。

「外に出たい!出しなさい!」

出来れば、手を伸ばして
引っ張り出してあげたい。

しかし、暗いんだよ!
あんたらは・・・。

灰色
灰色
あの世の
この世の
灰色。

灰色は地味で、
じわじわと痛む。

落ち着きが、
忍耐心が必要だ。

程よい苦味のある
コーヒーの香りを
吸いまくるしかない。

次は、深呼吸!

邪魔するもの。
午後の分厚い雲が
体中を色染めしようとしている。

鈍る神経は
こんなむなしい、
灰色の午後を
最も恐れているのだ。

鼻から唇を伝って
生臭い血が流れた。

あぁ!
生きている・・・・・。

灰色に負けない
真っ赤な血が、
コーヒーの中へ沈んだ。

喜びが湧いてきた。

さぁ、出ておいで!
抵抗しなくていいよ!
灰色の午後に出ておいで。

しばらく、
なるべく やさしく、
見守ってあげるよ。

話(会話)

「何んと言えばいいのかな・・・」
これは、私が知っている私の口癖。

話し相手の少ない私、
話す相手は限られている。
人と上手く会話が出来ないので
決められた場所での
何らかの繋がりのある集まり、
大勢の人と同じ時間を過ごさなきゃいけない所に
いる時、非常に苦しい。

社会性が足りないせいなのか、
人が苦手なのか・・・
おそらく、一番の原因は
会話にある。

学校での集団生活、団体行動は
息が詰まるほど嫌で、よく休んだ。
しかし、大人の社会では
そんな事通用しない。
なので、
なるべく私は少しでも自分を励ます為に、保つ為に、
無理して微笑んでいる。
作り笑顔・・・だが、少しは力になってくれる。
ほとんど話さなくても、
何とかその場での苦痛の時間を耐えようと自分なりに
努力はしているが、やはり無理がある。

人の前、職場、社会の中・・・・・
・・・だから、結局 酷く疲れてしまう。

話すのは嫌いじゃないが
言葉を口から、相手に伝えるのがとても苦しい。
言葉以外の言葉、
言葉じゃない何かが欲しい。

手紙を書くのも、
電話を掛けないのも
あまり、人と会わないのも
思わず、誤解を招くのも
相手を傷つけるのも
すべて私の言葉、もどかしい話のせい。

こんな私の話を
それでも耳を傾けて聞いてくれる
家族や友達。ありがたい。

偶に、
あきらかに嫌な態度を表す人に会ってしまう時がある。
私が失礼な事をしたかもしれないが、
その人の言葉が、視線が私を悲しくさせる。
思い出したくないが、思い出す。
そんな時はいつも
本を広げる。
読むというより、目に留まる言葉を見つけ
心からの話を交わす。
どうして、どうしてこんなふうに
人と話が出来ないのかな。

話、会話は苦手なんだけど、
結局、話で元気になれる。

何んと言えばいいのかな~
何か、まとまらない話を
深刻に書いている気がしてきた。
こりゃ、駄目だね!

夜中の3時か。
いい夢でも見よう・・・・・。

尻尾

下には下が、
その下を
掘り下げていくと
上がある。

上には上が、
その上を
上り詰めると
下がある。

下にも
上にも
どちらにも
属さない。

左へ
右へ
蟹歩きしない。

世界が丸い限り
ぐるぐる回る限り、

一生を懸けて
自分の尻尾を
追いかけていたい。

一度も
見たことのない
自分の尻尾。

今まで私、
何をして
何を探して
何になろうとしたのやら・・・。

つかめない尻尾を
見つけ出し、
回って、回って
回り続ける阿呆になりたい。

植える人へ。

慣れない手つきで土を触る。
柔らかい
温かい
懐かしい
あぁ・・・
これらは何かと似ている!

命が消えて
土に帰ったら
何が残る?
私が死んで
土になったら
何を生やす?

花を植えても
木を植えても
沈まない悲しみ。

あぁ・・・
これらは何かと同じだ。

何処にも、売られていない
持って生まれたものを植えたい。

土塗れになった
汚れじゃない汚れを
洗い流した。

愛を植えた広い畑、
何も見えない。

見えないままで・・・良い。

実る期待も、利息も
理想も、価値もない、
見晴らしの良い畑。

植える人へ。

生きている限り、
いつまでも、
植え続けてください!
適当な愛は
すぐ、枯れますよ。

今、家にいる?

暑い、暑い日だ。

どうしても

花を植えたい。

名前の知らない花を植えた。

少しだけ、

こころが満たされた。

しかし

何かが違う。

何かが・・・・・。

子どもは嬉しそうに

花を見て

笑っているのに

私の顔は石のように硬い。

濁った色んな醜い模様が

狭い意識の中から

情けない主張ばかり言っている。

自分が誰なのか

いっそ忘れたい・・・。

そんな時だった。

「今、家にいる?」

参った・・・。

どうして、

いつも友達から

助けられてばかりいるんだろう!

涼しげな風を運んで来てくれてありがとう!

静かな夜、

花を見て、

やっと笑える私が 今 ここにいる。

音符を拾う女

途切れるメロディーが
五線譜の上から舞う夜。

女は
男が落とした音符を
拾い集めていた。

夜の端っこを借りて
一文無しで始めた路上商売
男の帽子の中は 空っぽ。

投げ銭に夢を売っている訳じゃないよね。
そこから、
切り放せない強い綱を張り
どうにもならない夢へ
結ひつないでいるんだよね。

指先に絡まる悲哀
六弦の相棒の奴、
いったい、その男に
何を鳴らさせようとしているんだ?

世界中を歩き回る一人ちんどん屋
それが 男の夢。

お尻に出来た たこをつねったら
路上の夜風が笑った。

お前さん、
一曲聴かせておくれ!

ねちっこい Bフラットの音符が
乾いたアスファルトを湿らせた。

今宵の最後の歌を
一生歌い貫くのは幸せなこと。

奥ゆかしい夜。
どこからか
馴染みのあるメロディーが聴こえてきた。

女は、こっそりと
音符一つ拾い胸の中にしまっておいた。

それは相手のいない
モノローグのような
切ない音符であった。




デモ行進

札幌でも
安全保障関連法案に反対する市民らのデモ行進が
行われたらしい。

日本中で戦争法案の廃案を求める声が多い中
デモする人々を冷たい目線で見る人たちもかなりいるはず。

法案に賛成するのも、反対するのも
法治国家ならではの国民の意思表示。

このあいだ、夫とニュースを見ながら話をしていたら
夫は反対を示した。
何があろうが、日本がどんな事をされようが反対!
単純に、やられたのでやり返す事自体を否定していた。
もし、戦争で家族が犠牲になっても?と 聞いたら
少しは悩んだが、やはり答えは 戦争法案反対!!

私は今のところどちらとも言えないが
戦争が起きたとしても、
夫を 国の為に、家族を守らせる為に戦場には送りたくない。
こんな事を考えている今もなお世界のどこかでは
銃声が鳴り響いているだろう。

戦争ほど悲しい現実はない。

政治に関心がなくても
戦争法案の詳しいことを知らなくても、
戦争反対のデモ行進に加わり声を上げる事は大事だと思う。
中には 
便乗して遊び感覚で行進している人もいるかもしれないが、
何も行動せず 批判ばっかり言っている半知識人よりはマシだ。


棗の木

無色のひかりが降り注ぐ

正午の庭。

熱る体を

どこにも隠せず

棗の木は、立ち尽くしていた。

何かが可笑しい・・・

私は 試されている。

見る目のない何者かに・・・。


鶏もヤギもウサギまでが

小屋の中でのんきに昼寝。

こんなにも 静かで、

少しの嘘もない平穏な日

息苦しい・・・嫌いだ。

我慢できないほど 嫌いだ。

古家の縁側、

くつぬぎ石に置かれた履物を拾い

思いっきり庭先へ投げた。

そうすると、棗が

棗が、ぽんぽんと落ちて来た。

私は 

裸足のまま棗を拾い口の中に入れた。

甘くて おいしい棗・・・。


いつの間にか

鶏もヤギもウサギも起きていて、

庭に集まったひかり達が

安心したかのようにゆっくりと消えて行った。


記憶に残る悲しみの中には

私を励ましてくれた数々の存在がある。

当たり前なのに、

棗の木からは

実れる事実を教えてもらった。








ハマナス(ヘダンファ)

重い瞼の上に蜘蛛の巣
夏の仕掛けです。

このままだと
琵琶法師の家来に
なりかねません。

目を覚ました怖い夜
忘れちゃ行けない思い出が
線香花火のように燃えて
消え去ろうとしていました。

煙のように
主のない言葉が彷徨い

壁にぶつかる弱い波動は
主のない自尊心を傷つけ
心を奪おうとしています。

何の取り柄もない私です。
だからと言って、
視線を逸らし
空咳で追い払わないで下さい。

雨降る砂浜へ
連れて行ってくれませんか?

ハマナスが恋しいです。

赤い糸を紡ぎ、
小指に優しくまいて
亡魂になる前、
もう一度
マウニの涙を歌いたいのです。

日本海の遥か彼方は
何処の国?・・・・・・・。

懐かしい声が
聞こえそうな気がします。

私は、ここにいます。

忘れ去られた夏の思い出、
知らない浜辺に咲いているのでしょうか!

ハマナスが恋しいです。

マウニの歌が
恋しいです。


※ハマナスは韓国語で「ヘダンファ」と言います。

何も拒まない

何も量らない

何も比べない

変わりつつ 変わりのない

あの空。


幼い雲 手足を伸ばし

自由に泳いで行く。

白い鳥 黒い鳥 羽ばたいて

鳴き飛んで行く。

大きな飛行機は人間を積み

地上へ運んで行く。


空が続く限り、

ある限り行く、行く・・・

・・・行く、行く・・・どこまでも。 

戻っては、また行く いつまでも。

何だか悲しいね、

空はとこにも行けない。


何も拒まない

何も量らない

何も比べない

染まりつつ 染まらない

あの空。


見えない事 知らない事

最初から最後まで

あの空に書かれていた。

翼がなくてもいい。

自分の体で感じれば良い。

何だかありがたいね、

空はいつも後から教えてくれる。


ちょっと、眺めてください。

あの空が見えますか!

こぼれるあなたの微笑が

いま、

空から私のもとへ届いております。

ありがとう、ありがとう・・・・・。



七夕

あの星
この星
掻き集め
恋しい貴方を
訪ねて行きます。

天の川
一人船の川
漕いで行く彼方
恋しい貴方に
逢えますでしょうか。

黒髪簪挿し直し
一夜限りの
宴に参ります。

玲瓏とした笛声で
私を貴方の元へ
導かせて下さいませ。

あの星
この星
天の川
目映い恋散る
七夕儚し。



永登浦(ヨンドゥンポ)駅

下手な化粧をしたものの
涙で滲むのはマスカラなの?
それとも、列車の時刻表?!

 安っぽい黒い鞄には
何が入っているのかな?

下着と古い写真と親戚の住所のメモ
まぁ、お金になるものは何一つないね。

世の中を知らず、
教養も美貌にも恵まれず
大都会で生き抜くのは
君には自殺行為。

君は、田舎ネズミなんだから・・・。

大人ぶる君だが
真っ赤な口紅が・・・とても似合わない。

不自然な歩き方をしていると
見間違われるよ!

客引きの娼婦だと思われるからね。

警察に職務質問される前に
永登浦駅から離れるべきよ。

公衆電話を探しているけど
何処の、誰に掛けるんだい?

わかっている。
誰一人いないってことを。

さぁ、持っている全てのお金を出して
行けるどこまでの切符を手にして。

これで、お別れするの。

何処でもいいから、
何処でもいいからね。

夢とか希望とか、勇気だとか、
そんなものなどいらない。
自立するとか、そんなもんじゃないよね。
身一つ残して、
全部捨てましょう!

きっと、強くなれるよ。
離れて、離れて
また離れて、強くなっていくの。

さぁ、乗り遅れるなよ!
聞こえてるの?

深夜の駅から開演のベルが鳴り響いているよ。

更なる旅の劇はここから、
これからなんだからね。



※永登浦駅はソウルの永登浦洞にある駅です。
その後、遠回りして辿り着いたのは故郷でした。





そうだね!

職業安定所(ハローワーク)へ行き担当者と
仕事の相談をした。
以前の仕事を辞めてから、あっという間に半年が過ぎた。
ハローワークへ行くときの重い心境・・・少なからず
後ろめたさがあるので、心も足も重い。
相変わらず職業相談の担当者は毎回同じ質問をし、
相変わらず私は同じ答えをする。
求職活動の印を押してもらい、次回の認定日を確認し
申し訳なさそうに急いで出って来た。
早く仕事を見つけなきゃと思いつつ、本当にそう思っているの?
と思う自分がいるのも事実。

あぁ~。

帰り道、これからの事を考えた。
やる気はあるのかと、なくってもやらないとね!
自分自身に言い聞かせながら歩いていたら
なんと、道に迷ったのである。
豊平区と白石区、どっちなのか・・・月寒だから豊平区なんだけど、
全く知らない初めての町。

うれしくなってきた。
先までかなり落ち込んでいたのに、わくわくしてきて口笛まで吹いて・・・。
道に迷うと、何でうれしくなるのかな!

そうだね!

この先の事、
迷い道じゃないけど、くよくよしないで歩いていこう!
あまり自分を責めないで普通に少しずつ頑張ろう!
贅沢にのんびりと仕事を選ぶ余裕はないけど
今の、何とも言えない余裕を大事にしよう。

そして、
また始めよう。


胸の中に狼一匹、誰にも内緒だよ。

遠吠えを漏らしちゃ駄目

涎を垂らしても駄目

恐ろしい真実、

あの火の玉を見つめちゃ・・・

・・・駄目だからね。


暗闇が続くしばらくの間、踊りましょう。

「月光ソナタ」をかけましょうか!

時には、

原始の痛みを忘れ、心を乱す鬼を

騙す必要があるの。

だから、気が晴れるまで

胸の中で牙を鳴らし、

強がらない強さを手に入れましょう!


花の冠を大切にとって置く程、

私は純情な娘じゃない


お願い!草原を懐かしまないで。

どうか、この、私の胸の中で生きて!

似たもの同士の孤独を合わせ

磨り減るまで噛み付き、

月光の下で抱きしめましょう。


一本ずつ、

私の肋骨を砕いてちょうだい。

研ぎ澄まされた鋭いその牙で。


胸の中に狼一匹、誰にも内緒だよ。


皿を洗う男

冷たい水で洗い流す孤独。

冷たい手に絡まる後を引く無念。

洗うのさ、忘れるのさ・・・

皿を、汚れを、取れない悲しみを。

愛した女の口癖は ‘‘いつか”

いつか、うまくいくわよ!
いつか・・・しあわせになれるわよ!

ごめんよ!
こんなはずじゃなかったのに・・・。
割っちまった人生に
お前の苦労が染み付いていつまでも
取れないんだ。
ごめんよ!
幸せにしてあげられなくて。

冷たい水で洗い流す儚い泡。

冷たい手に落ちる温い涙。

流すのさ、かわいそうなやつ・・・

皿を、貧しさを、残る悔しさを。

愛した女の口癖に

うんざりした時もあった。

見てろよ!
うまくやっていくからな・・・。
お前の嫁入り道具を磨いていると
苦しみが何とか取れそうな
そんな気がするんだ。
見てろよ!
守るからな・・・・・・。

父は母の死後、一所懸命に皿を洗っていた。
そんな父の後ろ姿を忘れられない。
冬の井戸水は肌が切れるほど冷たく、
父は白い息を吐きながら皿を洗い、
桐の棚の上にそっと置いていた。
私が皿洗いをしようとすると、
父はいつも大丈夫だからと言ってた。
母を思う父の皿洗い。

皿を洗う男は私のお父さんだ。
お父さんは私に余るほどの愛情を注いでくれた。
時が経つにつれ親のことを深く思う。
「ありがとう」の言葉しか思い浮かばない。
そして、親が生きているとき伝えなかった「ありがとう」。
私は、皿を洗いながら
何度も何度も呟いている。