生命




















毎日
誰かに
踏まれる
でこぼこ道なんだ。

遊ぶ相手のいない
傷だらけの道なんだ。

雨が降り
水溜りが出来
懐かしい夢を見たんだ。

空は
少しの雨雲を
優しく溶かし、
樹は
小さな落ち葉を
パラパラふりかけ、
しずくは
硬い体を
そっとくすぐり、
僕は
思わず
笑ってしまったよ。

明日には
また
誰かに踏まれるけど

僕は
幸せでいっぱいなんだ。

消えてしまう
儚い命なんだけど
たかが
水溜りなんだけど

僕は
潤しく生きているんだ。

どう?

君の眼にも
そう映るだろう?!



視線Ⅳ




















七人の小人、
二匹の猫を飼いました。

七人の小人、
赤い帽子の男を雇いました。

七人の小人、
うわさ話をしていました。

七人の小人、
私に言いました。

白雪姫に
毒入り林檎を
食べさせたのは
あなたでしょう!

赤い帽子の男、
私を・・・
睨みました。


七人の小人、
二匹の猫を飼いました。

七人の小人、
赤い帽子の男を雇いました。

七人の小人、
何かを隠していました。

七人の小人に
私は言いました。

お妃さまに
毒入り林檎を
渡したのは
本当は・・・
あなた達の仕業でしょう!

猫が
にゃーごにゃーご
鳴きはじめました。

赤い帽子の男、
赤い目で
私を
睨みました。


公衆電話




















あの時、
何を話したっけ・・・

伝えられない言葉
伝えられない思い
伝えられない気持ち・・・。

沢山の10円玉、
受話器を片手に
単語帳を捲り
片言で話した言葉は
「あめ、ふる・・・
あいたい。」

公衆電話を
見かけると
思い出す
あの頃のわたし。

今でも
伝えられない。

いや、伝わらない。

言葉や思い、気持ちを
全部伝えてしまったら
わたしは
何も
書けなくなるだろう。

不思議と
全部
失ってしまうだろう。

だから、
伝えられないままでいい。

うん、それがいい・・・。

仲良し




















私たちは
違うけど
私たちは
同じ。

私たちは
生きているけれど
私たちは
いつかさよならする。

私たちは
妬まず自慢せず
私たちは
お互いを
尊重する。


私たちは
違うけど
違いを
心から愛する。

私たちは
近くにいるけれど
私たちは
礼儀を忘れない。

世界は広いが
私たちは
ここしか知らず
宇宙は広いが
私たちは
ここで出会い
一生は短いが
私たちは
ここで仲良く暮らす。

仲良く、
仲良く暮らしている。

鳥花




















飛んで
飛んで
お行き!

黒い太平洋
荒波恐れず
力強く
お行き!

風知らせる
遥か遠い先祖の声、
自由に
身を任せ
お行き!

そして
また
戻っておいで!

飛んで
飛んで
あたしの
ところへ
お帰り!

仙人掌





















夏までは
何とか
花を咲かせ
あの娘を
喜ばせてあげたい。

夏までは
何とか
生き延び
あの娘の
笑顔を取り戻してあげたい。

体中の寂しさを忘れ
体中の血を絞り
体中の
一番温かいところに
世界一
鮮やかな色で
咲かせて、
みせて、
あげたい。

夏が・・・
待ち遠しい。


ある日
見知らぬ女が
傍に近づき
ちらちらと
見つめながら
無礼にも
勝手に
体中を
撮り移した。

「かわいそうに・・・
このサボテン、死んでいる。」
といいながら・・・・・。


あの娘を
待っている
夏真っ盛りの夕暮れ、

私は

私は

死んではいない。

・・・・・・・

待っているだけだ。

待ち続けているだけなんだ。

丘の願い


何も言わないで

何も謝らないで

何も
何も・・・・・。

がらくた薬缶の蓋を
開けてご覧!

君の摘んだ
野イチゴだよ。

君の掠り傷、
足と腕と
頬の痛みを
忘れさせる
甘いごちそうだよ。

何も
言わないで、
誰にも
謝らないで
お腹いっぱいお食べ!

しかし
君は
どうして
毎日
わたしのとこへ
来るんだい?

わたしに
・・・・・
会うためかい?

わたしの
体には
君の
足跡が記され
君の細い道が
出来ているんだ。

うれしい
うれしい証だよ!

好きでも
嫌いでも
君は
わたしのことを
いつまでも
忘れないよね。

わたしには・・・
・・・わかるんだ。

いつの季節か
神様は
引っ越しをし、
鳥も
林檎も
ツツジも
野イチゴも
突然
住めなくなったんだ。

そして
マッチ箱のような形をした
大きな
大きな冷たいものに
押さえ付けられ
わたしは
気を失い
君の
大切な証も
なくしてしまった。

悲しかった・・・
とても・・・。

しかし
わたしには
わかるんだ

君の中で
生き続けている
私たちのことを
・・・・・。

君は
大人になり
遠い知らない国へ行き
人生の迷路を
歩き渡り
ある日
恋に落ちたね!
そして
君は
母になった。


わたしは
君に言いたい

君自身を
誰よりも愛して!

そして
いつか
逢いにおいで!

君の
足跡を
もう一度感じたい。

君の
こころから・・・

そう、
君の
こころの中から。

自分自身の
証を
しっかりと
丁寧に
こころへ記してください。


それが
わたしの
願いだよ。

電線




















何を
繋いでいるのかな

何が
繋がっているのかな

何を
送っているのかな

何が
送られてきているのかな

私たちを繋ぐ
あれは、
時々
私たちを切断させ
時々
復活させ
時々
時代の流れを
意識を変える。


孤独の皮を身に纏い
ゆらゆら・・・
ゆらゆら・・・

繋いで
繋がる
空中ブランコ。

切り離したら
私たちは
消え失せるのかな

消え残るのかな

今日も
繋いで
繋げる
空中ブランコ。



入り口すぐそこ




















頼むよ!!
落ちるなよ!


落ちた!!
・・・・・

落ちた?
・・・・・
えっ?!
・・・・・
落ちてない

降りた。
下へ、
青い屋根と窓の間

ベランダが・・・・・
あるじゃないか!

あっ、また上った!!


入口すぐ下です

どうもお疲れ様です。





















何者にでも
なれる

何者にでも
変われる

何一つ
ぶれる心なく
誰かの
緻密な
魂を
掻き混ぜることができる。

何者にでも
なれる

何者も
支配する

何一つ
恐れる心なく
誰かの
執拗な
魂を
読み取ることができる。


嘘だ!

嘘だ!

何者の中には
何者にも
なれない
面を被った
うつろな
わたしがいるだけだ。

何者の外にも
何者にも
なれない
面を被った
うつろな
わたしがいるだけだ。

面は
面ではないことを
知る時が来た。





視線Ⅲ




















空を
見上げ
鳥を
星を
数えるしかない。

雨に濡れ
雪に埋もれ
風に剥がされるしかない。

木を
見上げ
葉を
季節を
数えるしかない。

人に捨てられ
吸い殻に焼かれ
不当に扱われるしかない。

そうするしかない

そうするしかない
・・・・・

声を
出してしまうと
壊されちまうのだから。





黙考




















苦しい
何処までも
苦しい

伸び続ける
哀れみ

お前を
隠す場所が
見当たらない。


悲しい
何処までも
悲しい

百年誓いも
水の泡

お前を
愛した憶えが
思い出せない。


お前の
凍りつく運命、
俺の
あざとい魂を
突き刺す
黒い角。

交差する・・・

鈍い痛みが
伝わる・・・

お前と
俺との
ねちっこい思考の中へ。

五角形の
巣の中、
角に埋もれ
黙考せよ!

お前を刺す
その角
俺を刺す
この角。

苦しむな
哀れむな
悲しむな
恐れるな

黙考せよ!

お前は俺で
俺はお前だ。


視線Ⅱ





















仕方がない
・・・・・

また
足止めされた。


この小さな
生き物たちは
春から
冬まで
冬から
この先も
ずっと
ずっと
外で暮らすことに
なるだろう。

みすぼらしい
痩せた庭を耕し
自給自足の
日々を送りながら。

たまに会いに行くと
たまに喜んでくれる。

この子たちは
毎日見つめている。

私の知らない
何かを
・・・・・

この子たちは
毎日苦しんでいる。

それが

何か

知りたい。

視線





















わたしは
花を
見ていた

わたしが
見ていると思った。

花が
わたしを
見ていた

花から
見られていた。

怖かった。

今まで
自分の
見る目を
信じていた。

これからは
信じない。

花の目は
見えない・・・

見えないからこそ
見えてきた。

ありふれた言葉だが
目に見えない
ものだけを
信じることにした。

そうすることにした。

私への授業

生まれる前から
母は
詩を
聞かせてくれた。

地上の
母は

皆の
赤ん坊に
詩を唄ってくれた。

しかし
母も
私も
憶えていない
あなたも
あなたの母も
憶えてはいない。

この世を去る
母へ
父へ
友へ
猫へ
私は
詩を朗読した。

死者の
魂は全部
皆の
詩の
朗読で
天国へいった。

しかし
私も
あなたも
皆も
詩を
朗読した憶えはない。

生まれる前から
生まれ持ってくるもの

生きている間
無くしたり
隠したり
忘れたりするもの

自分の
足元を
照らしたり
消したりするもの

私が
あなたへ
近づいたり
離れたりするもの

あなたが
私へ
愛を注いだり
枯らしたりするもの

表と裏を
輪のように
くっ付ける生き物

血の流れる
生き物
・・・・・
・・・・・




詩。



花を想う





















来世の君は
花に生まれ
また
私に
逢える。

教えてください!

どうして
君は花で
私は
人間なのかを・・・。

どうして
君は私に
早い別れを
告げるのかを・・・。

教えてください!

君の意味を

教えないでください!

私の意味を。

瘡蓋




















何が
君を
痛み付けているのか
君の
傷の中を見たい
見たい。

君の
口を塞いで
剥がしてみたい。

何を
君が
痛み付けてきたのか
君の
傷の穴を掘りたい
掘りたい。

君の
目を塞いで
掻き毟ってみたい。

何に
君は
痛みを憶え
苦しい闘いを
続けてきたのか
君の
傷の原型を知りたい・・・
知りたい。


君に
付き纏う
私は
瘡蓋。

君の
何も
わからないまま
明日の明日、
いつかは
忘れられる瘡蓋。