50円のほうれん草

失われたものを
かぞえてみた
失われた思いを
たどってみた。

いま、この私には
心の足し算が出来ない
引き算も出来ない。

最も
悲しいのは
愛が
わからなくなったこと。

愛には
数字も、表も、裏も、
過去、現在、未来も
当てはまる形も
不純な色目もない。

それらを知ったら
そう、
まったく、何もかも
わからなくなった。

今まで私は
無くす為、
捨てたものは
沢山ある。

得る為、
拾ったものも
そこそこある。

しかしながら
今になって
風に飛ばされた心の中、
何もない・・・残っていないのだ。

こんなむなしい人生が
明日、また明日も
続くのなら
残りの人生を
そのまま神にかえす。

不思議な世界だ
世界は不思議だ。

売れ残った50円の
萎びたほうれん草。

かわいそうだね!
私が
食べてやる・・・・・。

頬に流れるこの涙は
何の意味もない。

ほうれん草が美味しくて、
美味しいので
泣いているのかも・・・。

明日から私は
ポパイになるのだ!
いつでも、どこでも
愛する
オリーブを見守るポパイになるのだ。

絶対に、オリーブには
ならない。

少しずつ、ゆっくりと
心の中から
なまぬるい風が通り抜けていく。

50円のほうれん草から
かけがえのない力を
いただいたそんな夜の事でした。

歩いたら・・・。

一時間ほど歩き続けた

何処かへ行きたい訳でもなく
歩きたくて歩く訳でもない。

心の中、
自分が投げられた石が
いつの間に
隙間なく埋められて
重い息を
吐き出せず
苦しんでいた。

二時間ほど歩き続けた

何が私を歩かせているのだろう
足の小指が痛い。

心の中
自分を追い込むのは
誰でもない自分。
なのに、
なぜ誰かのせいにしているのだ?
惨めな弱さ
気を張る自業自得の寂しさ

・・・帰りたい、
楽しく歩いてた
故郷の町へ・・・。

ここは何処だ?!

立派な松が立ている。

神社の鳥居をくぐれないまま、
しばらく私は立ち尽くしていた。

お参り帰りのおばあさんと
年老いた犬。

素直な目をした
白い犬・・・
私を見つめながら
片足を上げ
松の木に
おしっこをしていた。

そして
おばあさんと犬は
ゆっくりゆっくり歩いて行く。
素敵な、うしろ姿。

私も帰らなきゃ・・・・・。

歩いたら、
歩いていたら
帰りたくなった。

何処なのか!
何処へ帰りたいのか
本当は、
分からない。

野菜

朝6時前、
夫は仕事を終え
千鳥足で帰ってきた。

手土産で、
野菜を持って
帰ってきた。

酒に酔い
瞼は垂れ
酒に酔い
床に寝転がった。

小さな声で
私を呼ぶ。

野菜だよ!
貰ったんだ
食べてね・・・・・。

窓に注ぐ
朝の柔らかい光。

じっと見ていたら
眩しくなった。

このような朝は
必ず、
突然雨を降らす。

夫は寝ながら
何かを呟く。

野菜・・・いいね、ねぇ?
食べて・・・・・。

ビニール袋の中、
茄子二つ
胡瓜三本
トマト二つ
ミニトマト十五個

夫は時々仕事帰りに
野菜を持ってくる。
その野菜達は
どれも面白い形をしている。
そしてどれもおいしい。

そして、そんな日の朝
なぜかいつも泣いている私がいる。

野菜・・・いいね、
食べましたよ!

運命

刺さって来い。

えぐって来い。


一生の寂しさを

歓迎する。

一生の孤独を

賛歌する。


喜ぶ悲しみが笑う。

悲しむ喜びが泣く。


深く、深く

刺さって来い。


縫いきれないほど

えぐって来い。


中途半端な女は

運命を

愛しているのか。

それとも、

他人の運命にしがみつき

のんきに徘徊しているのか。

・・・・・・・・

痛みのない運命を

求めるな!

今、ここにあるのは、

お前の運命。

愛さなきゃ、

何もはじまらない。

愛さなきゃ、

何も・・・刺さってこない。

小樽の海

あの、
海を、
見たかった。

あの、
色を、
見たかった。

この世で一番私を
惹きつけるのは
海。

この世で一番私を
悲しませるのも
海。

万華鏡の青い光
オルゴールの波の音色
坂の上の水天宮の神様

あるべきものが
ある場所で
静かに待っていた。

現実逃避する女は
海の街小樽で、
しばらく夢を見た。

その夢は
何度も見た事のある
未完成の無声映画。

聞こえて来るのは何もない。

しかしなぜか
聞こえた。
あの、
海の声が。

また、いつでも
ここに
いらっしゃい・・・・・・。

小樽から帰ってきて何日も過ぎているのに
いまだに夢を見ているよう。
生活に馴染めない。
ぼっとしている・・・
夜風に秋を感じているせいなのか、何なのか、
とにかく心身がだるい。重い。

あの海がずっと頭から離れられない。
怖いほど・・・・・。

それでいいの?

悩み事、相談を心広く聞き入れる耳(心)が
私は乏しいので申し訳ない時がある。

世の中には、想像出来ないほど
ありとあらゆる事が起きていて、
どうにもならない面倒な事が
身の回りを付きまとう時がある。
いちいちそんな事気にしないで、
かかわらないで済む問題なら
かかわらないで済ませたいが
そう簡単には行かない。

世の中、社会の網は見事に
複雑に繋がっている。

足をもがけばもがくほど絡まったり
安全に守ってくれたり
実に良くも悪くも上手く出来ていて
中には、人々を結ぶ大事な網を破るのが得意な
人たちがいるのも事実。

私にも友たちにも子どもにも夫にも
悩みがあり、
時々誰かに相談したり、我慢したり
時々苦しんだり、悩んだり、悲しんだり・・・
気づかないふりをしているけど心の中は
24時間大変な思いをしている。

しかし、本当にわかってほしいのは
気づいてほしいのは
自分が自分に、相手にしている「間違い」
何らかの思い込みの間違いから
後戻りの出来ない傷をつけてしまうと、
人生、もったいない・・・寂しい・・・。

何が正しいのかはわからなくても
何かが自分の中で間違っているのかは、
きっときっとわかるような気がする。
何故なら、前に、悲しむ苦しむ相手が
いるのだから・・・・・。

こんな事してたら、相手を傷つける事になる・・・でも
いいじゃない。嫌いなんだから・・・・・。
自分の気持ちの方が大事!
相手の事、どうでもいい。

それでいいの?
それで、あなたはいいの?

今日もまた、
私は色々考えた。

なるべく出来ることなら、やさしい人間になりたい。
自分に、相手に、間違い人間に・・・無理なことかもしれないが
それで、いいの?をいつまでも、まず、自分自身に言える
ようになりたい。

「これでいいのだ」天才バカボンのパパの口癖。

いつか、私も言えるようになれたらいいけど、多分言えないな。

鳴き声

子どもの頃、
家の庭先で、裏山で
川辺で、ずっと鳥が鳴いていた。

朝から晩まで。


今じゃ、カラスの鳴き声しか聴こえない。

昔はすぐそこに木があり、足の下は
土だった。
「自然」は身の周りに、生活の中に自然にあふれていた。
生まれてから自然の中で暮らしていたので、
今思えば、何が自然だったのかもよくわからない。

田舎と都会みたいなものなのかな?・・・。
自然はどこにある?

時間があれば山に行く友達は鳥や木、
お花やリス、数々の山の生き物達に挨拶しながら
穏やかな、険しい山々を登っている。
どんな思いをしながら山の中を歩き登っているのかは
知らないが、何にもかえられない何かがきっとあるはず。

日本に来てから一度も見掛けていない鳥がいる。
「カササギ」、韓国語では「カッチ」。
韓国の国鳥でもあるカッチはとても鳴き声がきれい。
良いお知らせを運んでくれるカッチの鳴き声・・・恋しいな!。

今日も暑いが、お外にでも出かけて沢山歩こう。
何か、楽しい発見があるかも・・・・・。

鳥達の鳴き声でも聴けたらもっといいな。

新聞配達員

青年はいつも笑顔で
口笛を吹いていた。

慌てる様子もなく
こつこつと新聞を
配達していた。

何年間の間、
何度も彼を見かけた。

上下紺色のジャージー
日本ハムファイターズ
ロゴ入りの帽子

なぜ、
私は青年の事を覚えているのだろう。

4~5歳児のような
下手な挨拶・・・・・

彼の「こんにちは!」の声が
忘れられないからだ。

断絶された社会の片隅、
最後に残されたメッセンジャー
私には彼がそのように見えた。
なぜ・・・
なぜだか、そう思えた。

ある日、
散歩の帰り道

近くの公園で彼を見かけた。

二匹の犬を抱いて独り言を言いながら
くるくる歩き回っている青年。

幼い私の娘が
彼に近づき、
犬と彼を見つめる。

犬と彼は
娘と私を見つめる。

「こんにちは!」

彼は初めて会ったかのように
嬉しそうに挨拶をする。

私も、「こんにちは!」・・・・。

家に遊びに来ない?
彼からの不思議なやさしい言葉。

・・・・・・

私はその場しのぎに言った。

今度ね・・・。

青年は私以外の
誰かにも同じ事を
何度も言ったに違いない。

誰も遊びに来てくれない事も
知っていたはずだ。

だから、
青年は
新聞を配っていたのだ。

人へ、家の中にいる人へ・・・・・

印刷されていない彼の思い。

多分、
勝手に私はそう思ったのであった。

無言













窓の外の庭にはお花が咲いていて、
窓の中には冷気が漂う。
男(夫)と女(妻)の間、埋められない溝を
感じる。
黒い鉄柵、黒いドレス
青い壁、青いパジャマ
無表情の二人・・・。

この絵は、好きな画家マティスの「会話」です。

これから先、誰が、何を話そうとしているのでしょうか。
会話と言うより、重い沈黙、
「終」を感じます。
二人の距離は近いが、
二人の心はお互いに閉ざされて遠い。
二人の冷静な見つめあい・・・最後の、
長いような短いような、
時間が止まったかのような
特別な空気の流れを感じさせます。

この後、絵の続きの物語はどうなったのか・・・。

夫婦の会話

私はいつも夫に対して思うことがあります。
思わず自分の弱音を漏らしたとき、
生活の中、些細な相談の事を言うとき、
大体夫の表情は固まります。
無言のまま。何故か・・・(笑)
表情と言うのは
言葉よりものを言いますね。
正直、非常に悲しい気持ちにはなりますが、
今更そんな夫の態度に不満はありません。

確かに嬉しい気持ちになれる話ではないので
夫の反応は正しいかも知れません。が
聞きたかったのです。
夫の理解のある意見を・・・期待しすぎですかね。

ただ、自分の気持ちを少しでも
理解して欲しかっただけなんだけど、
夫はどうもそんな話が苦手らしいです。
つまり、私が求める意見(話)を
夫は最初から特に知っていて
求められる事をあえて言いたくないらしいです。
俺に、何を言わせたいの?みたいな・・・・・。

えっ?そうじゃないのに・・・
そう感じたなら何も言えないな。

毎回の事、
しょうがないと諦めつつあります。

思えば、
夫と出会ってから会話らしい会話をした覚えが
ほとんどありません。
音楽の話以外に・・・・・。

最初、日本語を話せなかった私は気持ちを
伝えられないもどかしさでちょっと苦しかったのですが
夫にはそんな様子が全く見えませんでした。
その時からずっと、
今も、夫はそのままです。

くだらない話も、大事な話も、
良い話も、悪い話も、
夫婦には必要かも知れません。

相手を尊重する気持ちさえあれば
口論も口論で終わり、
嫌な我慢より良い我慢をするように
なる気がします。

言葉のない会話はいくらでもありますが、
沈黙と無言を都合良く使って欲しくないのが
私の本音です。

正午12時

正午12時、
部屋が歪み
時計は止まる。

人間だけが
汗を掻いていると
思ったら
そうじゃなかった。

干されている
洗濯物を見ていたら
何故か
悲しくなった。

何をしようか・・・

花に水やり
トマトの収穫
蜘蛛の巣の観察
リンパ腺のマッサージ
・・・。

正午の暇人は
トイレに閉じこもり
エロスの世界像を読んだ。

サドも
バタイユも
プラトンもサルトルもごもっとも。

何が?・・・
さぁね・・・・・・。

「ママ!オセロやりたい!!」

白いチップ
黒いチップ、
君達も何だか悲しいね

暑い正午、
娘と私は
オセロをやっている。

お互い、
ルールも知らないまま。

でも、いいね。
こんな訳のわからない暑い日の
可笑しげな時間が・・・・・。




あせも(?)

かゆい
かゆい
我慢出来ず
掻いたら血が出た。

首のまわりに
あせもが出来たのは
3年前からの事・・・。

年中汗をかく仕事に就いてから、
夏に限らず
首の周りがかゆくなった。

赤く爛れた首を
人に見られるのは
実に恥ずかしい。

塗っても塗っても
薬は効かないし
しつこいかゆみは
おさまらない。

明日からまた
じめじめと、蒸し暑い天気になるらしい。

憂うつな気持ち・・・・・。

ひりひりと皮膚が痛む。
それでも掻いてしまう
血が出ようが
後のことは考えず、
とりあえず、掻く。

その時の気持ち良さ・・・
その後のひりひり・・・
その繰り返し。

あぁ、かゆみは本当に厄介で不快なものだ。

全部の心

誰も
自分の心の顔を知らない。
知るはずがない。

わたしの全部の心があなたで
あなたの全部の心がわたし。

心の全部は謎で
謎の全部が
この世を支配する。

仮面を持たない
精神病棟の人間
仮面を持ち続ける
健全社会の人間。

良い仮面
醜い仮面

どれを選択する?
どれが本当で
どれが嘘?

それぞれの仮面をかぶる
それぞれの仮面をはずす
残るのは、
やはり、仮面・・・・・・・。


映画「インサイド・ヘッド」を観た。
主人公の心の中にある
五つの感情たちがどれもいとおしい。

実際の事、感情の数を
人は、数えられるのかしら。
おそらく私には
私の知らない感情(気持ち)たちがいっぱいいそうな気がする。
それらは全部仮面に覆われて、いつ、どの場面で
現れるのかわからない。
今、持ている感情(仮面)だけでも大変なのに、
未知の新たな仮面を渡されたら・・・・・

子どもにも
大人にもその人の仮面があると思う。
上手に使いこなすか
下手に使いこなすか、
自分も、誰にもわからない。

何が、ありのままなのかもわからない。
ただ、正直にいられるのは不可能な事。

全部の心の顔
全部の心の声

全部を愛すしかない。

全部の心は仮面で出来ている。
しかし、
色眼鏡を外せば必ず見えてくる。
それが良い仮面なのか、醜い仮面なのか・・・
・・・・・どっちも、同じ。