追憶への線路




















あの日のこと、
あなたは
憶えていますか?

懐かしい
匂いが
線路を走って
汽笛を鳴らして
再び
あなたを
連れ去ろうと
しています。

何処へ
行くのですか

何処へ
帰ろうとして
いるのですか


あの日のこと、
あなたは
忘れようと
していますか?

薄暗い
物語が
線路を捻じ曲げ
汽笛を塞いで
再び
あなたを
襲い掛かろうと
しています。


あなたに
警告します。

線路の上に
夢や
希望、
明日などを
乗せちゃ駄目です。

丈夫な
あなたの
足だけを信じ、
自分の道を
歩き続ける人に
なりなさい。

この日を
思い出させる日が
いつか来るのでしょう。

追憶へ走る
線路を
笑顔で
見送る日が
いつか
来るのでしょう。




















彼は
輝いている
星の主人。

素敵な
妖精に囲まれ
幸福な時を
過ごしている王子。

彼のいる
惑星は
七つの罪のない
白い楽園。

叶わぬ愛も
妬む愛も
欲しがる
愛もない星。

彼に
近づけたら・・・・・
きっと、
私は
眩しさのあまりに
盲目になるだろう。


私は
彼の周りを
色も音もなく
漂う塵。

惨めな
感性を絞りながら
不穏な息を
奏でている屑女。

私のいる
惑星は
七つの罪なしでは
生きていけない楽園。

自慢する愛も
怠ける愛も
許されない愛もが
奪い奪われる星。

私に
近づいたら
きっと、
彼は
汚さのあまりに
へどを吐くだろう。

彼は
私の感性も
思想も
理解できず
存在さえ
気づかないだろう。

彼は
私の歌も
詩も
心も
魂さえも
塵のように掃うだろう。


私は塵、
永遠に
彼の妖精などにはなれない。

私は塵、

彼は
永遠に
私の星の
正体を知らないだろう。

夢を見る




















誰にも気づかれないように
夢をみる

誰にも邪魔されないように
夢を見る

誰も知らないように

誰も驚かないように

誰も悲しまないように

誰も罰しないように

誰も導かないように

夢を見る。

夢に生きる・・・

夢に死ねる・・・

そんな

夢を

私は

見る。


誰にも言えない
黒い地獄の夢を見る

誰にも見せられない
赤い天国の夢を見る

美しく

切なく

深く

痛々しく

虚無の世界へ

溺れていく。


そんな

夢を

愛している。

そんな

夢を

叶えようとしている。

そんな

私の夢を

夢が

今夜も

隣で

見ている。




彼女の顔

「私はね、
あなたみたいに
いつも笑えないの。
あなたみたいに
優しい人じゃないから。
どうして、
笑顔でいられるの?
・・・見習わないとね!。」

彼女は
皮肉を交えて言った。

笑顔は
見習うものでも
優しいから
いつも笑っているのでもない、と私は思っている。

そもそも
いつも笑っていないし。

彼女は
職場での私の笑顔が大嫌いだったような気がする。
何となく最初から気付いてはいたが
仕事上笑顔は何より大事なこと。

利用者との朝の挨拶、会話、介助・・・
けして楽な仕事ではない。

しかし
笑顔を浮かべると
笑顔が
何倍にもなって
かえってくる。
その笑顔はとても純粋で、
心が和む。

笑顔は言葉のいらない
心通わせる会話の一つ。

幸せだから
優しいから
嬉しいから
楽しいから
笑顔でいられるのではない。

辛さを
苦しさを
痛みを
隠したくて
笑顔を見せているのでもない。

単純に
笑顔でいられる自分が
楽だからなのだ。


私の手元に残っている
幼年期頃の数少ない写真。
その写真には
笑顔の映った写真はほとんどない。
無表情か
泣いているかどっちかだ。
二十歳を過ぎても
相変わらず無表情、
どちらかというと怒りの顔であった。

やっと笑えるように、
人に笑顔をみせるようになったのは
不愛想な男と恋に落ちてからなのかもしれない。

とにかく笑顔を見せないこの男、
自分から笑顔になるしかなかった。


優しそうな笑顔を見せようが
クールな表情を見せようが
つくり笑顔だろうが
自然な笑顔だろうが・・・どうでもいいのだ。
好きなようにすればいいのだ。
自分が楽になれる顔でいれれば
それでいいじゃないか。

繋がり繋がる不思議な孤独な世界、
見えそうで見えない二面性の世界・・・。

どんな気持ちで、
顔つきで
生きようが個人の自由だが
無理やり笑顔を抑えようと
口元を固め
強がりをみせる人たちがいる。

それはそれでいい。
本当にどうでもいい。

しかし私は
彼女のことを
もっと理解するべきだった。
職場での
彼女の心の声を
もっと聞くべきだった。
彼女が笑顔になれないことを
ぼそっと口から漏らしたとき
私は
彼女の怒る顔ではなく
心を見つめるべきだった。

視線Ⅴ




















品のない
猫背の
後ろ・・・

まんまるい
眼球を広げ
毎晩
私のことを
覗き込んでいる。

ちくちくと
針の刺すような
細かい
肩の痛み。

つまり
犯人は
お前。


お前が送る
夜の
無言の
メッセージ。

私は
感情のあるはずのない
お前に
怯えている。

私の目より
先に
言葉をなぞる
その
冷めきった
瞳の光が
何より
怖いのである。

お前の
眼球を外したい。

汚れ一つない
目ほど
怖いものはない。





錠前




















あなたは
他にも
二つの
カギを
持っているのね。

右利きなのね。

しばらく
錠前を
開けていないのね。

だって
つる草がくっついて
伸びているんだもの。

小屋の中に
何が
入っているのかな。

どんなものが
閉じ込められているのかな。


私は
あなたが
持っているカギの
隠れ場所を知っている。

花壇に置いてある
真ん中の石の下よね。

前足で
カギを引っ張り出し
遊んでいる
野良猫を見たわ。

小屋の中に
何を詰めているのかな。

どんなものであれ
暑苦しそうで
かわいそうよね。

私は
あなたの
顔をみたことがあるの。

鼻から煙草の
煙をはきだし
ポイっと花壇に捨て、
通り過ぎる私に
不揃いのトマト
五つくれた人。

本当は
あなたの
小屋より
カギより
あなたの事が
気になるの。

腰のあたりに
沢山の
カギを
ぶら下げている
あなたが
妙に
気になるの。

その
不気味さがね。

いない




















蜘蛛がいない

家を
開けたまま
どこかへ
行っちまった。

糸を
たぐって
戻ってくるのを
待っていたが、
蜘蛛は
帰ってこない。

張られた綱には
雲が絡まり
太陽が引っかかり
風だけが
とおりぬけて行く。

眩しい午後、
心透ける夏なのに
蜘蛛はいない。


大はしゃぎの少年達が
緑色の虫かごを
笑顔で
覗いている。

木の枝で
突っついている。


虫かごの中で
足の折れた
蜘蛛が
泣いていた
・・・・・・・。





月に抱かれて




















ハマナスを
最後に見たのは
満月の
夜だった。

海を越え
山を越え
見知らぬ道に
迷い込んだのも
満月の夜だった。

裏切られ
憎しみに燃える
愚かな自分を知ったのも
満月の夜だった。

かび臭いベットの下で
私の傍から去りゆく
猫の泣き声を聞いたのも
満月の夜だった。

満月、
あの月が
嫌い。

あの月を嫌う
自分は
もっと嫌い。


月夜の下、
悲しみを広げ
誰かに
見せている。

過ぎ去った日々に
縛られている
心模様を
誰かに
見せびらかしている。

少しでも
誰かに
憶えてもらいたくて、
想われてほしくて
私は
わたしの存在を
むさくるしくつづる。


満月の月を盗み
一生返そうとしない
不条理の病・・・
罪のない月へ
全ての
責任を押し付ける
悪徳の病・・・。


私のいる
うす暗い部屋へ
月が
入ってきた。

私の
目元を照らし
何も言わず
抱きしめてくれた。

そして
静かに夜空へ帰った。

あの満月の
帰った後、
心から
愛していたことに気づいた。


私だけじゃない
誰かの
悲しみ、
誰かのことを
自分のことのように
忘れずに
想い続けていたい。

月に抱かれ
痛みが癒えるように
そっと
見守っていたい。

ハマナスも
猫も
わたしも
あなたも
月に抱かれ
生まれ変わるのを
信じていたい。


背中を愛する人

いつも
父の
背中を
見ていた。

下を向き
ゆっくりと歩く
負け犬のような姿。

悲しかった・・・・・。

他の人には
見せたくなかった。

前からは見えない
気づかない
父の
本当の顔。

大好きな
善人の顔、
貨物所での
貧しい労働者の顔、
アルコール塗れの
世離れした顔、
無所有の
欲を知らない顔、
弟の死を背負い
苦しみに耐える顔、
愛を
愛のまま
愛する顔。

そのような
父の顔を
包み隠さず
見せてくれる
父の
背中が
いとおしく、
時には
苦しく思えた。


ある日から
酒屋までの
慣れた道を
まっすぐに
歩けない父を見かけた。

その背中、
後姿は
魂のぬけた
古木の姿・・・
少しの風で
飛ばされそうな
弱弱しい枯れ葉のようであった。


前からは見えない
気づかない
父の
無常の顔。

残りの時間を
惜しまなく手放す
さよならの姿。

その背中には
拒否できない本質が
へばり付いてあった。

どうしようもない
愛の本質・・・。


私を作った
遺伝子の中には
父の背中の影が
いつもさまよっている。

そして
心の中には
もう一人の人物、
カジモドと言う男がいる。

私にどって
父と
カジモドの背中は同じ姿。


自分自身の背中は
自分では見られない。
自分で
見るものでもない。

人の
他人の
何気ない背中を
今日も見つめる。

他人を
平等には
愛せないが
他人の
背中を
何となく
愛しようと思う自分がいる。

こころの
不自然さなのかもしれないが、
私は
父の背中、
カジモドの背中から
計り知れない影響を
受けているのは事実だ。

なぜなら
愛の本質を
素直に受け入れ
死を恐れず
世を去る
彼らを
この目で見て
心で感じたからだ。

理屈のないその人の
愛の姿は
背中に宿る。

醜くても
美しい。

影話




















「ねえ、ママ!
二人きりの夜だね!
綺麗な
大好きな
影を
描いてくれる夜だね!」

「ねえ、ひばり!
どうして影が好きなの?」

「そんなこと聞かないで!
ただ好き・・・理由などわからない。」

「そうか!そうだよね。
好きなものに理由などわからないよね。」

「ねえ、ママ!
このままずっと歩いて
ママの故郷まで行けるといいね!」

「そうね。
歩いて行ってみようか?」

「うん!!」

今夜の散歩




















夜風に抱かれ
ワルツを踊る
広場の旗

同じ色
同じ模様
同じ大きさなのに
同じ踊りを見せない。

夜の灯りに照らされ
そびえ立つ
広場のテレビ塔

街の恋
街の物語
街の思い出だから
街の夜を明けさせない。

夜の声に呼ばれ
野良猫のように
気の向くままに
歩いていたら、
札幌で
今を生きる
私を発見した。

素敵な街だ。

まさしく、
「恋の町札幌」だ。

広場に座り
旗の
踊りを
眺めていたら
あたたかい涙が
ポツンと落ちた。

素敵な
今夜の散歩を
私は
忘れない。

髭男




















この髭男、
棘が
生えている。

この髭男は
下唇を隠し
何かを
企んでいるかのように
顎髭を触っている。

この髭男の
心理状態が心配だ。

この髭男を
無言で
眺めている
女の
心理状態も心配だ。

この髭男の
棘は
強い毒性を持っている。

一度刺されると
中毒性を引き起こし
二度
三度・・・
刺されたくなるらしい。

この髭男、
棘が
痒いらしい。

刺したくて
刺したくて
たまらなく
痒いらしい・・・。

金色の夏




















夏の
眩しさは
金色の
希望の夢。

夏の
子供たちの
背中は
金色の
宝箱。

夏の
下校の
帰り道は
金色の
遊びでいっぱい。

夏の
大人の
影法師は
金色の
余韻。

夏はいいね

気持ちがいいね

キラキラと
こころが
息をするね。





気づくⅡ

地獄の
谷間に住む
動物たちは
深い
雲の海から
僅かな光が
零れ落ちると
裸に生えた毛を
そり落とし
祭りを開く。

互いの
不気味な体を
泥まみれに飾り、
一番
醜く固まった
体を選別し
祭りの中心へと運ぶ。

そして
土器を割るように
叩き、
粉々に砕き、
宙へ
撒き散らかすのである。

彼らの目的・・・
意味を知らない
儀式の祭り、
無知な騒ぎに
呆れ果てた
地獄の神は
悲しみに暮れ
谷間を去った。

去るものがいれば
現れるものがいる。

荒波のように近寄る、
血も凍るような、
残酷なほど
うつくしい
わめき声。

ああ、
眩しい!
あなたは、
誰?!


真夜中、
私は
目を覚ました。

そして
しばらく考えた。

現れたのは
天使でもなく
去っていたのは
悪魔でもない。

全部が全部
人間だ・・・。

自分が誰なのか
やっと
理解できたような気がした。

私は
谷間から
逃げ出した一匹の動物。

正確に言えば、
叩き割られ
宙へ
巻き散らかされた
泥なのかもしれない。

うつくしくなれる
憧れを求め
裸のまま
逃げ出した
地獄の動物なのかもしれない。

ともかく
地獄の谷間から
逃げ出したことは確かなような
そんな気がした。

多分・・・。

気づく




















老いた木のようだ

色気のない足だ

綺麗に

見せようと試したが

無理だと気付いた。


深い井戸のようだ

枯らした根っこだ

綺麗な

湧き水を手に入れようとしたが

無理だと気付いた。


昨夜の夢のようだ

嘘のない無意識だ

貪欲に

愛を乞う自分を殺したが

無理だと気付いた。




灯りの友




















渇いてしまえば
枯れると
思っていました。


彷徨い続けば
縛られないと
思っていました。


歩き続けば
道の先を
予見出来ると
思っていました。


少しの
努力をしてきたつもりでいました。

少しの
情熱も注いできたつもりでいました。


悩んでいる
ふりをしながら
思っていることを
思っていると
思っていました。


皆に
笑われました。


現実というものは
正直で強いものです。

足したり引いたりせず
逃げたり隠れたりせず
瞬きもせず
怖いほど今を
生き続けているものなのです。


私は
正直な現実が
好きではないので
夜の
灯りを
友にすることにしました。
友を愛せば
愛されると思ったからです。

心を集めている倉庫・・・
それは
灯りのともる
夜の
道の上にあります。

そこには
現実などありません。

あるのは、
灯りの友だけです。

思いの

心の

愛の友だけです。

しかし
残念なことは
明日には
消えてしまうことです。

三つの理由

魅了される不変の光、

信仰熱心な

ある馬鹿者が

世界一

長い梯子を担ぎ

星を取りに行く決心をした。

これには

三つの理由があった。

神に

認められ

ご褒美を貰う為、

気高い

自慢気な魂を

宿わせる為、

群れる力に

羨望の対象になる為。


馬鹿者は

足元を見ず

遠くを見る。

闇を裏切り、

光を欲しがる。

そして

決心を実行するまえ

丈夫な新しい靴を

手に入れようとする。

ずっと

いつまでたっても・・・。


それから

ぼろい靴を

履き続けたまま、

三つの理由の

夢を見ながら

終わる。


あ!実に

恐ろしい後悔の話である。

私です




















飾る

語る

誇る

そして、
自惚れる。

うわべだけの
薄い美学。


聞き飽きた
説教の哲学。


私は
気力を
失いそうだ。

精神を縛る
つまらない鎖、
病のような
偏見の意識を
私は
悲しむ。


私は
私を
真っ裸に
脱がしたいだけ。

もっとも
私らしい、
本来の
哀れな姿でいたいだけ。

誰が
何と言おうと
このまま、
動かないまま、
石のように
いたいだけなのだ。


お願い!

私を
触っても
蹴っても
いいが
品物のように
扱わないでおくれ・・・・・。





僕は




















僕は僕。

君は君。

僕は犬でも、
君は人間でもない。

君は僕を撮る。

僕は君を嗅ぐ。

君は
かわいいと言いながら
うれしそうに
何度も
僕を撮る。

君は
僕の顔を
君の
自慢話に載せ
満足の笑みを
浮かべる。

そして
僕を閉じ、
明日には
忘れる。

僕は
僕の心で
映した君を
忘れない。

何故なら
君の
匂いを
憶えてしまったから。

僕は僕

君は君

僕と君との違いは
あるけれど、
僕は
君を
忘れない。





ごめんね!




















雨さん!

わたしの
長靴に踏まれて
痛いでしょう?

ごめんね!!

わたし、
大好きなの雨の日が・・・。

雨さんがお見えになると
家の中から飛び出し
ずっとずっと
歩き回りたいんだ!

でもね、
歩いていると
どうしてか
悲しくなるんだ!

家のママもね、
同じ事言ってたよ!


娘は
雨が降り出すと
外に出たくてそわそわする。
私は
雨が降り出すと
とりあえず、頭痛薬を飲む。

私の母は
いつも言ってた。
すべてのものには
ものの主があり、
私たちは
ありがたい気持ちで
ものを接しないといけない。
そして
いつか必ず元の主に返す。
土も
石も
蜂蜜も
山も海も
そして
オンミにも
主がいるのよ・・・。

つらかった。

存在するすべてのもの、
生命を統治する主の目を
意識する日々の暮らしが。
とくに
空から落ちる雨は
主の涙のような気がして
悲しくて寂しくて怖かった。

雨が降ると
「ごめんね、雨さん!
良い子になるから泣き止んでね・・・。」
私は
いつもこころでお詫びをしてた。

娘の
雨に対する
「ごめんね!」を聞いて
私は
亡き母のことと
幼い頃の
自分の
「ごめんね!」を思い出した。

今、
何事に対しても素直に謝らない自分を
恥ずかしく思う。

謝らなきゃいけないことが
いっぱいある。

ものへ、ものの主へ・・・

ごめんなさい!

蝙蝠の花




















夜は
すぐそこよ!

目を開けて
私を見て。

輝かしい
暗闇の
森へ
案内してあげるよ!

君のこと
誰も
指さしたりはしないよ。

夜は
ここよ!

羽を広げ
霧を抱いて。

懐かしい
物語の
丘へ
連れて行ってあげるよ!

君のこと
誰も
貶したりはしないよ。

私は
君が
何となく
好きよ!

君に
何でもしてあげたい。

ああ、
神様の手に
少しづつ
夜が
畳まれているよ!

さあ、
急いで!
・・・早く!

二人で
夜の
赤い花を
貪りましょう。

夜は
二人の
目の前よ!




















強がる弱さ、
抑えきれない
哀れみを
溶かして下さい。

底のない欲望、
捻じ曲がった
自尊心を
跳ねかえして下さい。

わたしの
目、
耳、
口を
わたしは
疑います。

どうか、
光で
洗わせて下さい。

無色の
静かな
人に
なりたいです。

何かが
うねり
叫んでいるのが
聞こえていますか?

何かが、
他人をよそい
心の壁を
ひっかいているのが
見えていますか?

ため息で
濁る
心の中を
照らしてください!

光・・・・・

たったひとつだけの
光で

わたしを

救って下さい。

魚屋




















カニが
冷凍室から
逃げ出し
シャッターを
開けようとします。
 
イカも
タイも
ウニも
タコも手伝っています。

しかし
シャッターは
びくともしません。

今夜も
あきらめ
身を
潜むしかありません。

借り暮らしの
ゴキブリが
皮肉な言葉をかけました。

皆さん!
人間に
買われて
食べられちまえば
身軽に
望むところへ
帰られますよ!!

皆は
互いの
姿を眺め
うなずき
身を
固めました。

魚屋の
奥にある居酒屋から
歌が流れてきます。

どこの
店主の歌声でしょうか

サザエさん~
サザエさん~
愉快なサザエさん~。


夏子




















汗ばむ正午
夏子の
新しい人生への
旅立ち。

東南アジア
山岳僻地へ
夏子の
夢が
運ばれる。


「秋の夕日に照る山もみじ
濃いも薄いも数ある中に
松をいろどる楓や蔦は
山のふもとの裾模様・・・。」


大好きな童謡、
もみじを
口ずさみながら
夏子は
夏の緩やかな
小道をのぼる。

夏子!
せめて、
秋に行ってほしかった。

夏子!
忘れずに
必ず
手紙を書いておくれ・・・・・。

幸運を祈るよ!!

手品師は何処に




















自由の名で
それらを
手放す時が来た。

彼らに
彼女らに
愛の名で
元通りの
楽園を
与える時が来た。

我らが
吐き出し
踏みにじったのは
唾でもない
世の情け。

大量兵器をつくり
大量虐殺を行い
大量主義の奴隷を生み
大量争いの終わらない
悲しみを楽しみ
裁判官以上に
残酷に罰する
狂乱の世。

これらを無にする、
粉々に砕く大なる力。
インチキな神の声より
遥かに強い声・・・・・

ああ、
自由とか
愛とかが
自由になる、
ある意味
不自然な
世の中を見て見たい。

新しい星が
歴史をつくり上げるたびに
切り落とされた無垢な花々たち、
崇高な愛を歌うたびに
戦いの火を吹いた人類兄弟たち。

ああ、
ひと時の幻・・・
白い光を包み込み、
消して
飛ばして
姿を変えて
現して
咲かせてみせる手品師は何処?

21世紀の
本物の手品師は
何処にいますか?


いつだって
いつだって
・・・・・・
そこにいる。

その中に。

自由も
楽園も
悲しみも
神も
愛も
狂乱と共に
そこにいる。

私が恐れる
花の中で、
静かに
咲いている。