裸の女神




















見惚れるほど眩しい満月、
つまずくほど暗い道。

騒がしい人々は
箱に閉じこもり、
鳥たちは
ねぐらの中で
飛ぶ夢を見る。

不吉な赤い星がきらめき、
街は高炉に囲まれ
不死身の
カラスが
鉄筋の骨を貪る。

猫が
煙突の煙を追う。

川は
水しぶきになり
虹のように消える。

おかしな夜だ
恐ろしい夜だ

祈りたくなる夜だ!

聖典の女神が
飛び出してきて
密かに
裸の懺悔をしている。

静かな声で
私の代わりに
祈りまで
捧げている。

何かが
ひっくり返そうな夜だ

裸のまま
生まれ変わったような夜だ!

意識から伝わる
全ての醜い形体が
遠く
遠くへ
離れていく。

裸の女神も
微笑みながら
遠く
遠くへ
離れていく。

こどもの頃の
何も
お願いしていなかった祈り、
そのような祈りが
鮮明に
想い出す夜だ。

量り売り




















ねぇ、あなた!
1㎏の
愛は
一週間でなくなるから
5㎏にしましょう
一か月は保つと思うわ。

最近の世の中、
万が一
何があったら
不安だわ。

愛がなくて
飢え死になるのは
いやよ!

沢山
買い溜めしたいけど・・・
今は
そんな余裕ないもんね!

ねぇ、あなた!

もっと働いて
もっと稼いでちょうだい

夢だわ!
100㎏の愛を
現金で買い
贅沢に
飽きるまで
食べつくしてみたいの。

絶対に
一流の
ブランドの愛じゃなきゃね!

あぁ!
どんな味がするのかしら・・・

美味しいよね
きっと・・・

幸せだろうね。

疲れたら




















休もう
疲れているんだ!

休める場所は
沢山ある。

トイレの中は
なかなかいいね。

バーのカウンターでもいいし
地下鉄のプラットホームでもいい。

ソープランドのベットの上でも
整骨院のベットの上でも
ネコカフェでも
漫画喫茶店でも
女装倶楽部でも
銭湯でも
映画館でも
どこでもいい。

じっとして
体を座らせるの
じっとして
心も座らせるの

疲れたら
疲れたと言おう!

カラスにでもいいし
電信柱でもいい。
靴に向かって言うのも
いいね。

彼女や
彼氏には
言わない方がいいかもね。

疲れた
自分を
労わってあげよう。

しかし
不思議ね!

世の中、
怠け者の方が
口うるさく
疲れたと騒いでいるよね。

わたしも
その中の
一人なのかもしれないね。

未完成




















一度咲いた花は
完成されて散る

一度脱皮した蝶々も
完成されて去る

人間以外の
無垢で
純粋な生き物たちは
完成され
天国へいくんだ

一度うまれた
あなたとわたし
未完成のまま
いつか
終わる

あなたは
悲しんでいる

うつくしくいられない
外面に悩まされている

あなたが
もし
花なら
蝶々へ
身を売ればいい

あなたが
もし
蝶々なら
花へ
舌を売ればいい

しかし、
結局
何者にもなれず
壊れやすい完成品として
扱われるだけ

あなたは
悲しんでいる

欲に振り回され
肥大化している
内面に苦しんでいる

花と
蝶々と
あなたと
愛と
友情と
信頼の為に
未完成のままでいたい

別れる時が
来たとしても
死ぬまで
あなたと
未完成のままでいたい。

人間の
本当の
うつくしさは
未完成の
未完成を貫くこと

花が
いま
そう教えてくれた

きっと
あなたも
わかっているはず・・・・・。

寝転がる場所




















疲れた体
疲れた頭
疲れた昨日も
今日も、
ここで
寝転がれば
安らぐ。

嫌な出来こと
嫌な人の顔
嫌だった時間も
空間も
ここで
寝転がれば
忘れる。

社会で働く態度
社会人ある意識
社会の息苦しさも
ここで
寝転がれば
ひとりの
バカになれる。

未来への希望
未来への不安
未来への設計図など
ここで寝転がれば
どうでもよくなる。

見つめたい魂
見つめたくない心
知りたい魂
知りたくない心
ここで眺めていれば
何もかも
諦められる。

いつも
ここで
寝転がり、
娘の
寝顔を眺め
夫の
横顔を眺め
自分の
今を眺める。

幼稚な妄想を抱いて
寝転がるときもある。

誰かに
私のことを
一瞬でも
眺めてもらえたらな~。


ここで
寝転がりながら
地味にくつろぎ
明日のための
心を充電する。

こんな居場所が
あるから
私は
また頑張れる。

心から感謝する。

夜想




















確かな自分を
探しているのかい?
求めている自分に
なりたいのかい?

確かな自分だけを
誇りに思うのかい?
求めている自分だけを
理想としているのかい?

世界に、
確かなものは
何も
存在しないよ。

求めている自分は
何処にもいないよ。

ここにいる自分を
悲しませないで
ここにいる君を
放り投げ出さないで!

正直な心で話そう
わかり合えなくても
構わない
わかったふりだけは
やめよう。

外を見て!

夜を見て!

真っ暗闇、
暗いからよく見えるよね。

光も
闇も
君も
私も
心も。

ただ、
自分に
必要な、
何より大切な
愛せる自分を
育てよう。

それだけで随分だよ!
それだけで、
世界の半分は君になる
残りの半分は私で
二人は一つになり
新たな
豊かな世界が生まれる。

光を
闇を
君を
私を
二人の心を
強く抱きしめる。

夜を見て・・・・・

全てが

ここにいるよ。

入る




















部屋へ入る
畳の上を歩く
漂う光を
手に乗せ
静かに息を吹く。

私へ
部屋が入る
心の中へ座る
籠もる微熱を
母の手のようにさする。

部屋へ入る
畳のかおり
檜の優しさ
窓辺の物語
天井の夢見る
世界へ入る。

一つになりたい。

私へ
部屋が入る
心の中へ横たわる
流れる暗い詩を
父の背中のように受け入れる。

部屋へ私が
私へ部屋が
入る。

一つになる。

そして、
お互いに
何も
語らず
出ていく。

そして、
お互いに
何も
残さず
離れていく。

一つになれたから。


膿の言霊




















母国語でもない
言語以外の叫びで
魂を抉り返し
陰湿な傷を付けた

地上の全てが
凍り付く
酷い痛みを感じた

涙の
代わりに
流れ出したのは
悪塗れの
膿・・・
止めどなく
溢れ出す膿。

それを
隠すように
拭った

手遅れなのに
それを
口の中へ
押し込んだ。

もう、
隠せないのに・・・
もう、誰もが
逃げ去って行くのに・・・
シュルレアリスムの
自虐芝居が
いつの間にか
リアルになっていた。

自問自答を
繰り返す
神様の奴隷達が現れ
天使のメッセージを
盗み聞き、
自問自答を
繰り返す
悪魔の奴隷たちが現れ
天使の羽を
膿の中へ溶かし踊りだす

悲惨な
悲しみは
蜜より甘く、
虚無な
ジェラシーは
愛より強いと歌いながら。

心を
支配する膿が
爆発を
繰り返しながら
自問自答の
奴隷達を脅かす

その
脅かしを喜びに変える。

卑怯な奴!

本当の
私を
連れ戻し、
奴隷の
わたしの為に泣きたい

私を知る
唯一の何か、
私を救える
唯一の何か、
何か・・・・・

知らないのか?
愚かなお前さん!

膿だよ!

お前さんの
言霊、
膿だよ!

もう、
下手な芝居から
奴隷達を放し
自由に
自由になろう

膿の言霊に溺れ
魂を踊らそう

出来るのか?
出来るのか?!

トム・ヨークの汁




















濃密な
大なる
エロスが
喉の奥へ
恥骨の中心へ集まり
脊髄を
ゆっくりと上り
全身全霊へ
優しく
じわじわと伝わる

雪の結晶より美しいんだ
雪の白さより眩しいんだ・・・・・


激しい激痛の方がマシだ!
刺されて苦しむ方がマシだ!
ドロドロと溶けて消える方がマシだ!


大なる
一つの世界を搾り
一滴も
こぼさず
注入する

トム・ヨークの汁を・・・

気持ちが悪いほど
めまいがするほど
好きになった。

こんなにも
人を好きになれるなんて、
びっくり、びっくり

生まれて
初めて
感じるこの気持ち、
どうすればいいのか
全然
わからない。

ただ
驚くばかり・・・

レディオヘットのトム・ヨークは
現実の世界にいる人?

非現実の、
真実の中で
生きていてほしい。

さあ、
注入しよう

トム・ヨークの汁を・・・

血になり
命になり
わたしが
私に
なれるんだ。

迷い




















迷っている

君を
押し込むべきか

海へ
投げ出すべきか

君は
どうしたい?

迷っている

君を
私のものにするか

誰のものにも
ならないようにするか

君は
どうしたい?

常に
想像以上に
私は迷っている

周りが笑うんだ
呆れるほど笑う

私も笑うんだ
自分を笑う

迷いながら
悔しそうに・・・笑う。

誤解されたまま
理解されないまま
ある世界に
逃げ回っているけど
何かの力に
連れ戻される。

参った・・・

泣きたいよ!

虚しいよ!


迷っている

君は
確かに私に
話を掛けている。

その話に
耳を傾けるべきか
迷っているふりを
するべきか
わからないよ・・・・・。


君も
迷っている

私を
現実へ押し込むべきか
脱出させるべきか

困ったね!

私は
どうしたい?

私は、
君の
殻の中へ
私を
閉じ込めさせたい。

何も
見えてこないように
何も
聞こえてこないように。

ある世界に
連れて
いかれないように
私を
隠しておきたい。

しばらくの間でもいいから
隠しておきたいんだ!

それに
迷いはないよ

・・・ないんだ。

螺旋




















無限に続く、

存在を残す。

くだらない結果論を

次元から追放しちまえ!

無限に苦しむ、

傷跡を数える。

深刻に悩む人間を

螺旋の中へ投下しちまえ!


無限に生き残りたいのか

無限に蒸発し消えたいのか

わからない
・・・・・・・
いや、

わかる
・・・・・・・


終わりの見えない

どす黒い真ん中、

永遠に出られない

穴の中から

お前に

叫んでやる!


人類を

喰っちまえと・・・・・。

音楽の光




















音楽に
心を
救われたことが
ある人は多いだろう

音楽に
命まで
救われた人も
いるのだろう

音楽で
人生が
変わった人も

音楽で
国を
友を
愛を
捨てた人も
いるのだろう。

私は
音楽家ではないが
音楽を奏でる
神様が
とても好きだ

一つだけ
信じているものがある。

魂が
真っすぐに
寄り添うその先

魂が
体から
離れてまで
向かうその先

音楽の光が
あることを。

その光を
常に
求めている。

目で見てはいけない
文句を言ってはいけない
疑問を持たず
その光に
頭の硬い
私を
連れていけばいい

そうすれば
数々の
音楽の
神様に出会える。


素晴らしい・・・

素晴らしいことだが

何故か

とても悲しくなる

眩しすぎて

魂が

泣くのである。

あぁ!

その光は
今夜も
眩しい限り。

人間以外




















名もない浜へ

地球人ひとり。

生きている

・・・・・・・

人間以外の命が。

息をしている

・・・・・・・

人間以上の物語が。


名もない浜へ

獣一匹。

死んでいる

・・・・・・・・

人間以外の命が。

もがいている

・・・・・・・・

人間以上の物語が。


名もない浜へ

名ひとつ。

波へ

連れ去られ

消えていきました。










アーダッコダ星人




















モンクック星から
来ました。

アーダコーダと
人の言うことに、
根ほり葉ほりと
おせっかいを
しています。

人の言っていることを
まったく
信じませんね!

人のやっていることに
イラついていますね。

困りました。

深呼吸




















深呼吸をしたいが
出来ない。

張り巡らされている
殺し屋の
監視の縄。

心拍数は千を超え
体温は13℃、
悔しいが
怯えているんだ
この先が
怖くてたまらない。

そろそろ
後もなく
崩れ落ちるのみ。

寂しい・・・
とても寂しい。

大切な一つの
思い出を
どうして
君は
壊すんだ?

どうして
背を向け
離れていくんだ?

ハートを
訳も分からないまま
縛られたことが
君にはある?

ハートを
無敵の
侵入者に
襲われたことが
君にはある?

君のハートは
何があっても
僕が
守り続けていたい。

叶わぬ願いだとしても、
君が
僕を壊したとしても、
僕が
君にそうさせたとしても。

深呼吸をしたいが
出来ない。

君の名前を
叫んでいるのに
君には
全く聞こえていないよう。

君の中から
消える時が来た。

壁のような
邪魔のような
僕を
捨て去る時が来た。


あぁ!
ハートが
痛いほど
膨らんだ。

苦しいが
自由の空気が
充満しているんだ。

深く
長く
呼吸をする。

・・・・・・・・・

さようなら!

全てを
消し・・・忘れるのさ。

労働者の猫




















今日で三日目

ご主人様は
遠い街で
汗を流し
鉄筋を運び
組み立てている。

繁殖し
増え続けている
金持ちの為の
立派で
豪華な住処・・・
広いブタ小屋を
つくりあげているんだ。

僕は出窓に座り
考え込んだ。

ご主人様の
未来について。

請求書の中に
請求書は埋もれ
政府機関に
最小限の希望も
消し去られ
人間の群れに
追い出され
出口の見えない
洞窟の中を彷徨う
かわいそうな
僕の
ご主人様。

働いても
働いても
何も変わらない
へんてこりんな
ご主人様の人生・・・
増えていくのは
拾われた僕達だけ。

僕達と
ご主人様に
未来はあるのかな。

僕は出窓に座り
祈ったんだ・・・
ご主人様の
無事を。

あんたも
祈ってくれ。

僕の
友達だろう!

鼻が痛い
痛いんだ。

一週間分の
キャットフードに
ハエが集まり
喰い倒され
ちっとも動かない。

あんたは
わかるよね!
僕の
この気持ちが・・・
この
何とも言えない
やるせない悲しみが。

そういえば、
向かいにある
金持ちの
大きな金庫へ
人間が集まり
喰い倒されたらしい。

臭い墓場に
なっているらしいけど
あんた、
知ってた?!

それより、
申し訳ないが
糞塗れの窓を
拭いてくれないか

目が痛い。
痛いんだ。

あんたは
僕の
友達だよね・・・・・。

供養




















梵鐘の響きに
導かれ
参りました。

死者の魂の声に
呼び出され
祈りました。

御灯明に
照らされ
微笑む仏さま、
その頬は
懐かしい
桃色でした。

お坊さんの
唱える
清らかなお経が
私の体を
すっと
通り抜け、
祭りに賑わう
すすきのへ
ゆっくりと
滲んで行きました。

しばらく
目を瞑り、
小さな撞木で
自分のこころを
突いてみました。

不思議な
音が
私の中から
鳴りました。



赤い花




















どうせ、

一晩の内に

散る花なの。

どうせ・・・

あすには

死ぬ花なのよ。

それでも

欲しいでしょう?

どうしても

摘みたいでしょう?


二足で夜を這う

奴がいたの。

二足で

奴の夢に

化ける

赤い花がいたの。

甘くも

苦くも

美しくもない花へ

強くも

大きくも

賢くもない

弱い虫が来たの。

しかし

じめじめした

奴の欲望は

猛毒の蠍より強く、

粘々した

赤い花の血は

噴き出すマグマより

熱かったの。

それでも

虫は

花を欲しがり

花は

虫に刺されるのを

夢見ていたの。

やがて

奴は赤い花を

赤い花は奴を

殺してしまったの。

結局、

二人は死んだの。


それでも

欲しいの?

赤い花が・・・

欲望が・・・・・。

ほら、

あっちにも、

こっちにもいるよ。

咲き乱れて

いるのよ。


どう!

獲物に

餌食になってみる?

投影




















日が沈むと
あなたのことを思う。

柔らかな
雲のような
あなたの魂、
一度でいいから
あなたに触れたい。

私の
知らない私を
あなたのもとへ
連れて行ってあげたい。

私の
知っている私を
下界の底から
引っ張り上げ
あなたの宇宙へ
飛ばしてあげたい。


日が沈むと
あなたのことを思う。

真理が
内面が
膀胱が
爆発しそう。

後もなく
消え去る魂なの?
曼荼羅のように
二度と逢うことのできない
あなたなの?

私は
美醜の分別がわからない
善悪の区別がつかない・・・

日が沈むと
あなたのことを思う。

自分の体の
何より
正直で
働き者で
怠慢で
怖い足。

それを
合わせて
あなたを
思う。

すべてが
すべてを
傷つけあう世を
踏みつぶしたいと思いながら・・・・・。

あなたが
首を振りながら
涙を流しているのが
見える。

日が沈むと
その涙が
私には見える。

静かに
静かに
私は
足を
合わせる。

あなたが
そこにいると
信じながら・・・。


目の前に




















破裂しそうな
胸元を
揺らして
走る女が
目の前に。

イヌの
リードを
強く引っ張り
携帯電話を
操作しているやつが
目の前に。

酒に酔い
ふざけた遊びで
川に飛び込み
溺れる者が
目の前に。

飲み干した
ペットボトルを
平気で
階段に置いていく者が
目の前に。

仲良く
水浴びをする
白いカモメと
黒いカラスが
目の前に。

炭火を焚いて
肉を貪り
煙草を吹かす
若い男と女が
目の前に。

橋の下、
何かをしている
無頓着な男が
目の前に。

夜明け前、
男の
ギターケースの中から
出てきた迷子の蟻が
私の
目の前に。

夢の中、
迷子の蟻を
探している
仲間の蟻が
目の前に。

目覚めた朝、
髭を剃り落とした
見覚えのある
橋の下の男が
目の前に。