パン工場

パンを食べた
小麦の匂いがした
牛乳を飲んだ
乳の匂いがした

私は

パン工場で働いた
住む家が無くて、
宿舎のあるパン工場で
一日12時間動いた。
ひたすら載せる、
ひたすら混ぜる、運ぶ
載せる、混ぜる、運ぶ・・・
全身白づくめの私は
私ではなく、
まるで小麦粉のようであった。
ある冬の夜、
何も持たず逃げ出した
本も日記帳も置いて
暗闇の地獄から逃げ出した。
夜が明ける前の
工業団地の色を今でも覚えている
死の灰色を・・・。

パンを食べ終わった
私は
何故か泣いていた
こんな自分が
とても嫌だけど、
何故か泣いてしまった。

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