新聞配達員

青年はいつも笑顔で
口笛を吹いていた。

慌てる様子もなく
こつこつと新聞を
配達していた。

何年間の間、
何度も彼を見かけた。

上下紺色のジャージー
日本ハムファイターズ
ロゴ入りの帽子

なぜ、
私は青年の事を覚えているのだろう。

4~5歳児のような
下手な挨拶・・・・・

彼の「こんにちは!」の声が
忘れられないからだ。

断絶された社会の片隅、
最後に残されたメッセンジャー
私には彼がそのように見えた。
なぜ・・・
なぜだか、そう思えた。

ある日、
散歩の帰り道

近くの公園で彼を見かけた。

二匹の犬を抱いて独り言を言いながら
くるくる歩き回っている青年。

幼い私の娘が
彼に近づき、
犬と彼を見つめる。

犬と彼は
娘と私を見つめる。

「こんにちは!」

彼は初めて会ったかのように
嬉しそうに挨拶をする。

私も、「こんにちは!」・・・・。

家に遊びに来ない?
彼からの不思議なやさしい言葉。

・・・・・・

私はその場しのぎに言った。

今度ね・・・。

青年は私以外の
誰かにも同じ事を
何度も言ったに違いない。

誰も遊びに来てくれない事も
知っていたはずだ。

だから、
青年は
新聞を配っていたのだ。

人へ、家の中にいる人へ・・・・・

印刷されていない彼の思い。

多分、
勝手に私はそう思ったのであった。

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