狐と山葡萄

鼻先が赤いお坊さんに
酒樽を供える狐。
私はこの目で、
見たんだ。

山奥に住む狐を
村人は化け物だと
恐れていたが、
それは嘘、真っ赤な嘘。

とても、美しかったよ。

ある昼前、
私はお腹を満たす為、
山葡萄を求め
山へ入ったんだ。

秋の訪れる山には
色とりどりの落ち葉が
静かにお休み中。

あ!あそこにある!
たくさんある!

高い木にぶら下がっている
山葡萄。
食べるのに苦労したよ。

森に差し込む薄い光・・・
そろそろ帰らなくちゃね。

その時、
酒樽を転がしながら
庵の中に入っていく狐を見たんだ。

私は、
忍び足でお坊さんと狐の話を
盗み聞きしたんだよ。

あと、
千五百六十三回、
酒樽を供えると
狐は人間になるらしいよ。

かわいそうな狐、
お坊さんに騙されているのね・・・。

家に帰った私は
少し悩み、また明日
山へ行こうと思っていたよ。

しかし、その夜
お父さん、お母さんに怖いほど叱られ
行けなかったんだ。

真っ赤な山葡萄の汁が
私の指先、口の周りに染み付いて
山へ入ったことが見つかってしまったんだ。

あの狐は
人食い化け物じゃないのに・・・。

あのお坊さんを敬う
大人たちが遥かに怖いと思ったよ。

一つだけ、
私の謎が解けたのは
お坊さんの赤い鼻先のこと。

酒樽のせいね!

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