ナラガシワの森

僕は君を
鞭で叩かないよ。

足で蹴ることも、
しないよ。

だって、
君は素直な子。

僕を負ぶって
あちらこちらへ連れて行き
朝から晩まで一緒に
同じ時間を過ごす。

僕は、
読み書きの出来ない子。
学校へは行けない子。

でもね、
頼もしい君が
僕のそばにいてくれて
僕の一日は悪くないよ。

言葉のいらない友を持つことは
他の何より幸福なこと・・・
僕はそう思っていたよ。

初夏のある日、
朝一番の静かなあぜ道、
霧に包まれ歩いた君と僕。

忘れられない一日。

畑仕事の昼休み、
僕はナラガシワの木を揺らし
ドングリを集めていた。 

君は腰をおろし草木に触れ
のんびりと昼寝。

僕達の生きた最後の瞬間。

確かに、
鼓膜の破れる空の割れる音がした。

降って来る火の玉、
全てが燃えていた。

僕は、
血塗れの足で君を探した。

崩れ燃えゆく山河、
やまない悲鳴の地獄・・・
黒い煙を掻き分けながら
僕が手に取ったのは君の頭絡。

燃えゆく君を呆然と見つめながら
僕はゆっくりと熱い地面へ倒れた。

学校へ通っていた子どもらは皆いなくなり、
あぜ道は大きくえぐられ、
焼け焦げたナラガシワの木々だけが
怒る金剛力士様のように立っていた。

不気味な謎の塊が
全てを破壊させるおかしげなこと。

僕はどう理解すればいいのか・・・
いまだにわからない。

君と僕を繋いだ頭絡、
ひとときも忘れず、
手放すことが出来ない。

君亡き、黄土の上。
僕は両手いっぱい
生きる望みの種を植え、
毎年沢山のドングリの餅を搗いた。

繰り返されるおかしげなことを
なんどもこの目で見ながら
僕は諦めずに種を植え続けてきた。

いつか、
君に逢える日が訪れたら
僕はこの頭絡を捨てるつもりさ。
そして、
君と同じく肩を並べ、
あぜ道を
ナラガシワの森を静かに歩きたいんだ。

その時は、
離れず一緒に、
一緒に昼寝でもしよう。

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