ナジュムの涙

青い綿毛の羽が
自由に空を
飛び回っているらしい。

光り輝きながら。

まったく、何の利益にもならない
つまらない話、
その光景を目にしても、
人生の方向を変えさせる
出来事が起きるとは
思えないが、
親善バカンスの
フィナーレを飾るには
ちょうどいい
おいしい話なのかもしれない。

貧しい共和国、
捨てるつもりの
空っぽのペットボトルを
羊の乳を売る両手のない
少年は欲しがっていた。
あげたお礼に
少年はナジュムの渓谷話を
聞かせてくれたのだ。

その瞳から
でたらめなことを
言っているようには
思えない。

どうやら
この先に広がる
三つの砂漠を越えると
青い綿毛の羽、
光るナジュムに
あえるらしい。

蜃気楼を探す
初の無謀な旅、
一瞬、
その場へ行かざるを得ない
予感がした。

嘘であってほしい、
夢のような光景。
青い、
青い綿毛の羽が光る・・・。
いや、嘘に違いない。

嘘は虚無そのもの。
嘘だけが信じるもの。
虚無の裏には、
きつく編みこまれ苦しむ
底知れない数々の哀れみが
横たわっている。

これこそ、
情けのない我が人生!
君の人生!

こんな人生がもたらす
危険な呪文を何度も悪魔と
取り引きしながら
冷気漂う道を平然と歩いてきた。
善意を装い、
邪魔者は踏み潰し、
欲しい愛は奪い、欲しいものは
必ず手に入れる。

何故、今、
それらを情けないと思うのか、
理解不能だ。

「一度は、
命掛けて、
信じるものを粉々に壊したい。
死んでしまうかもしれない
真の光をこころにいれかえたい・・・。」

暑く眩しい日差しに反射され
恐いほどうつくしい少年の瞳、
君は何者だ?!
君こそ、ナジュムではないだろうか・・・。

手を振る少年を後にし、
歩き出した。

編みこまれた呪文を
突き破るかのように
体中へ刺さりこむ砂の棘、
枯れたサボテンのような
体を引きずり、
やっと 
一つ目の砂漠を越えた。

酷く疲れた・・・
しかし、
足を休めることが出来ない。
何かに歩かされている。

やはり、
この地へ足を運んだのは
大きな間違いである。
少年との出会いは不運である。
巡礼者のふりをして
寺院の柱を触れたのも。
名誉を買う為
財産の一部を寄付したのも。

真っ暗闇の月明かり、
現世とは思えない無音の世界。
遥か昔、生まれる以前、
誕生への悲しみを思い出しながら
何とか
二つ目の砂漠を越えた。

更に、
酷く疲れた・・・何も考えられない。
しかし、足は歩き続けている。

頭の中が氷のように
冷えていく。
こころの中が炎のように
燃えていく。
まったく、
湧き起こる嫌な情念を抑えられず
予想外の感情に支配され
三つ目の砂漠を越えた。


昇る星の群れ、
沈む星の群れが交差する渓谷

そよそよ!!ひらひら!!ぴっかん・・・
そよそよ!!ひらひら!!ぴっかん・・・。 

かつては、
悪魔に取り引きされた
虚無の哀れみ、
姿を隠すことなく
すべてがここで
それぞれ輝き生きていた。

一つの生命として・・・・・。

青い綿毛の羽の正体は
この目で見る限り悪魔の羽であった。
光る輝きは、
太古のナジュムの涙だろう。

悪の支配者が
ここではまるで天使のようだ。

さぁ、これから
自分の力で真の光を探す
本当の旅の始まりだ。

次は、
君が行って確かめる番だ。

そして、
必ず前の方へ歩み進んでほしい。

きっと、君は
四つ目のオアシスで
きれいに手足を洗い、
誰の背中にも悪魔の
青い羽が縫われている事実を
知る事になるだろう。

虚無の哀れみが
どれほど人間を救っているのか、
その輝きが
けして、汚らわしいものではないことを
わかってほしい。
なぜなら、
ナジュムの涙が集まり海になったのだから。

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