言えないよ。

石壁、細い道の終わり・・・

全ての迷路の行き止り 

風に揺れ動く
板一枚の扉だけが
静寂さを壊している。

まさか、
ぼろい扉の向こうが
理想郷への入り口だとは・・・。

未知の世界を知るとき、
なぜ、
懐かしさに包まれるのだろうか。

いつの間に門番に成りすまし
扉に鍵を掛けている私。

煙草を吹かしながら
小人の紳士が現れ、
門番のわたしの肩に
紙切れを貼り、
螺旋階段を下りてゆく。

その後、
センスを扇ぎながら
貴婦人が現れ、
シンバルを鳴らす猫と
螺旋階段を下りてゆく。

鬼のような能楽師、
マリアのような修道女、
もしくは娼婦。

ギターを抱えた演歌歌手、
土門拳の目つきをした観音様。
 
喜劇のサーカス団、
悲劇の思想家、
ユートピア描く夢想家、
舌を切られた詩人。

それぞれの人が、
わたしの体に、
それぞれの紙を貼り
扉の中へ、
理想郷の世界へ入ってゆく。

残念だが
門番のわたしには
この、板一枚の扉を超えろ事が出来ない。

扉の前に蹲り
わたしは泣いた。

紙切れ一枚一枚
剥がしながら、
紙切れ一枚一枚
見つめながら・・・・・。

何故かって?

言えないよ・・・・・・。

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