音符を拾う女

途切れるメロディーが
五線譜の上から舞う夜。

女は
男が落とした音符を
拾い集めていた。

夜の端っこを借りて
一文無しで始めた路上商売
男の帽子の中は 空っぽ。

投げ銭に夢を売っている訳じゃないよね。
そこから、
切り放せない強い綱を張り
どうにもならない夢へ
結ひつないでいるんだよね。

指先に絡まる悲哀
六弦の相棒の奴、
いったい、その男に
何を鳴らさせようとしているんだ?

世界中を歩き回る一人ちんどん屋
それが 男の夢。

お尻に出来た たこをつねったら
路上の夜風が笑った。

お前さん、
一曲聴かせておくれ!

ねちっこい Bフラットの音符が
乾いたアスファルトを湿らせた。

今宵の最後の歌を
一生歌い貫くのは幸せなこと。

奥ゆかしい夜。
どこからか
馴染みのあるメロディーが聴こえてきた。

女は、こっそりと
音符一つ拾い胸の中にしまっておいた。

それは相手のいない
モノローグのような
切ない音符であった。




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