雨の降る夜、鉄道橋の下

その日もいつもの様に、
遠ざかる最終緩行列車の、
後姿を見届けていた。
8時間後、
朝日の昇る海岸線を通りがかり、
終点駅、釜山に着くだろう。

何の用も無いのに、
ひとりで駅に行っては、
しきりに改札口を覗く。
様々な表情を顔に浮かべ
出って行く人、入ってくる人、
送り迎えをする人々。
子どもながらにも、
大人達の心境を読み取っていた。

列車が見えなくなると、
広場の噴水井戸の水を
お腹いっぱい飲み、
線路つだいの土手を歩き家へ帰る。

その日の、
家に帰る途中、降り出した雨。
雨宿りしなくちゃ!
あっ、そうだ・・・
胸が高ぶり始まった。
いつか、行って見たかった鉄道橋の下
クムスンお姉さんがいる所。
あんなにもきれいな、赤い光。
あんなにもきれいな、女達。

売春宿の立ち並ぶ赤線地帯。
一度、
行って見たかった禁断の場所。

雨の降る夜になると、
鉄道橋の下へ行き、
嘘の雨宿りをする。
そこは、
湖に浮かぶ、
男と女達のうつくしい島。

何度も行く内に、
町のおじさん達の夜の顔を知り
何度も行く内に、
青年団地下組織の秘密基地が
あるのも知った。

時が流れ、
故郷を離れる最後の日も
そこの、赤い光を見つめた後
列車に乗った。

運よく、雨の降る夜だった。

夜は好きじゃない。
でも、雨の降る夜は好きだ。

子どもの頃、理屈なしに感じた感性、
今の私を支えている。
過去の想い出と言うより、
子どもの頃の想いで。

最近、ひとりで過ごす貴重な時間の合間
忘れていた色々の記憶が蘇る。
楽しかった想い出は少ないが
何かしらに、
見守られていたようなそんな気がした。

0 件のコメント:

コメントを投稿