Mr、カサブランカ

猫背の出来の悪い、
その上、器の小さそうな男。
磨かれた、眩しい光沢の
エナメル靴。

自称、カサブランカ、と言う男。

いつも、金縁の眼鏡越しに
私の事を観察している。

しかし、何故だか気になる。
妙に光っている、ミステリアスな目。

カサブランカ、
深夜を待ち焦がれては、
私を誘い出し、車を走らせる。
都会外れの田んぼ道。
コオロギ達の合唱を聴きながら、
カサブランカは息を飲み込む。
私は、
断頭台に置かれている様な
悲惨な気持ちだった。

言葉以外の言葉が
暗闇の空間を漂う。
異常な雰囲気ではあったが、
言葉の要らない、
沈黙の自由がある。

カサブランカは私に
罪と罰でもあり、
幸福を与えてくれる、
存在でもあった。

夜が明けるまで、
カサブランカは
微動もせず、ひたすら
何かを見つめていた。
何かを・・・

ある深夜

カサブランカは眼鏡を外し、
大きく息を吸った後、
私に言った。

君の乳房に、くちづけしたい!

・・・・・・・・

お金が欲しいのなら、あげるよ。
幾らでも。
幾ら欲しいのかい?
・・・・・・・

突然、
自分の中に何かが現れた。
幻から目が覚めたかのように、
瞬きが止まらない。

その時、私の頭の中に映画の台詞が浮かんだ。
    
   ‘‘君の瞳に乾杯!’’

・・・・・なぜか、
・・・・・とても、悲しかった。

思った通りのMr、カサブランカ。

私は何を求め、
あの男と会っていたのか!?

あの男から見たら、私は只の女。
私から見たら、Mr、カサブランカは只の男、だった。





 

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