堕天使

地平線を覆い包む漆黒の闇。
誰かが鳴らす、マンドリンの響き。

新たな魂を手に入れようと、
旅立った者がいた。
ジプシーの血を受けついた彼は、
凍りつき始める水の王国を後にし、
生の裏側を目指した。

本来の男には、自由を愛するきれいな血が流れ、
天から与えられた使命を果たそうと
旅を続けていた。
人を愛し、歌い、踊る日々の中
男は与える喜びを捨て、
与えられる快楽を覚え、欲望の角を
光らせるようになった。

忍び寄る魔手、
己が生み出す内面の産物。
世の悪魔は、誰でもない自分の背中にこびりつき、
罠を仕掛けては笑い、苦しみの種を撒き散らす。
生身に投影される堕天使!
それは、紛れもない自分自身の姿なのだ。

過去、現在、未来・・・
時間と空間を繋ぐ見えない隙間
そこに潜む天使と悪魔。

かつては、神の使者であり、
天使と悪魔は一つの身だった。
永遠と神の元で、賛歌を唱える天使達。
恐ろしい程、平穏な楽園の静けさ、
退屈すぎる変化のない自由。
天使達は全てを手放し、
あるがままに生きる道を選んだ。
神は怒りに燃え、彼らを突き落とし
苦しみを生み続けるようにした。

わがままな神である。

鉛より重い、欲望の自由。
生きる苦しみ、喜び・・・・・
無数の堕天使達の悲哀の歌・・・
数々の哀れみがぶつかり合い、
時には、愛が生まれ、抱きしめ踊る。

新たな魂を手に入れる旅の道は、
生の裏側ではなく
目の前、先に広がる道のみである。
あるがままの己を受け入れ、
新たな魂を宿らせ絶えず肥やすこと。

堕天使である男は、私の姿であり
私は、悪魔の姿でもある。










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