赤坂の かおりちゃん

曇り空の午後4時。

大事な商売道具を背負い
ビニール傘を
地面に突つきながら、
かおりちゃんは
三鷹駅から丸の内へ向かっている。

膨らんでいる緑色のリュックの中身は
安い化粧品と水商売用のドレス。
そして、おにぎり。

人の臭い、息の詰まる地下鉄、
小走りに歩いても
足の速い東京の人達に追い越される毎日。
長い階段を登り地上の赤坂へ。

揺らぐネオンの谷間、
深まる夜の片隅、酒に飲まれ
男と女は曖昧な誘惑を交わす。

段々、かおりちゃんに化けていく。

耐えられないほど自分が嫌になる日々
ごっそりと店から抜け出し
雑居ビルの薄暗い階段に座り、
しっかりと自分に言い聞かせた。

後もう少しで、芝居は終わる!
烏の鳴き声が聴ける・・・
始発線に乗りお家へ帰られるからね!
かおりちゃんを演じるのは悪いことじゃない。
生きて行くため、仕方がないのよ!

かおりは、3年間歯を食いしばり頑張った。
・・・・・・・。
あの頃
仕事を終え、赤坂見附から始発に乗り
新宿駅に着くと、プラットホームで待ち伏せしている
箱バン仕事帰りの彼氏が私を見つけ、
いつも一緒に三鷹のお家へ帰った。
と言うのも、精神が弛んでいる時
あの頃のことを考えると身も心も引き締まる。

苦労も苦労だと思わず、辛くてもひたすら頑張れたのは
どうしてだろう?!
確かなのは、もう二度と私は、かおりちゃんにはなれないこと。
何かに化けてまで自分を燃やす情熱がない。
そうか!
情熱か・・・・・・。
何か寂しいな。







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