深い波の谷間へ行かねばならぬ。
静かな動きで身を構え、
流れに逆らわず、一個の自分を
守らなければならぬ。

海という広い輪の世界。

どんな理由で、
そこを目指すのか分からない。

忘れない為、忘れ去られない為
生まれの川へ手紙に綴られた
契りのない別れの言葉。

海に結ばれ溶け込む
柔らかな川の心。
惜しまず送り出される命・・・・・

鮭は、
一人前になり、いつか
戻ってくるのを誓った。

どんな理由で、
こんな旅をするのか分からない。

限りの無い透明な硝子の輪。
仲間にも、敵にも、
涙なんか見せず、
ひたすら泳ぎ続けた。

ある日、潮の流れに案内され、
鮭は、胸を膨らませ長旅に出る。

立派な体を思いっきり動かし、
川を上り始める。
懐かしい温もりを感じながら、
休まず上り続ける。
擦り傷には目も向けず、
ぼろぼろの体を生まれの川へと運ぶ。

鮭!!
君は納得しているの?
君の疑問は成し遂げたの?

長旅の意味など鮭は知らないまま、
口を大きく広げて、
新たな命を吐き出し
死んだ。

私にも、鮭の長旅の意味が分からない。

一つ分かるのは、
死に場所を得る地が
生まれ場所であるのは、
最後の幸せなのかもしれない事。




食卓の上には、
美味しそうに焼かれている鮭がある。
箸で鮭の身を口に運ぶ。
・・・・・おいしい、
でも、悲しい。

生きるため、体を保つため、計り知れない生き物を
頂いている中、ついつい考えてしまうそれぞれの物語。
人間を食べる生き物がそこら中にいるとしたら、
人はどんな気持ちになるだろうか?!
生死に繋がる食べる事への本能的な欲求。
今の多くの人々、自分自身を含め、
異常な程、欲求を求め過ぎているそんな気がした。



















 

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