月に抱かれて




















ハマナスを
最後に見たのは
満月の
夜だった。

海を越え
山を越え
見知らぬ道に
迷い込んだのも
満月の夜だった。

裏切られ
憎しみに燃える
愚かな自分を知ったのも
満月の夜だった。

かび臭いベットの下で
私の傍から去りゆく
猫の泣き声を聞いたのも
満月の夜だった。

満月、
あの月が
嫌い。

あの月を嫌う
自分は
もっと嫌い。


月夜の下、
悲しみを広げ
誰かに
見せている。

過ぎ去った日々に
縛られている
心模様を
誰かに
見せびらかしている。

少しでも
誰かに
憶えてもらいたくて、
想われてほしくて
私は
わたしの存在を
むさくるしくつづる。


満月の月を盗み
一生返そうとしない
不条理の病・・・
罪のない月へ
全ての
責任を押し付ける
悪徳の病・・・。


私のいる
うす暗い部屋へ
月が
入ってきた。

私の
目元を照らし
何も言わず
抱きしめてくれた。

そして
静かに夜空へ帰った。

あの満月の
帰った後、
心から
愛していたことに気づいた。


私だけじゃない
誰かの
悲しみ、
誰かのことを
自分のことのように
忘れずに
想い続けていたい。

月に抱かれ
痛みが癒えるように
そっと
見守っていたい。

ハマナスも
猫も
わたしも
あなたも
月に抱かれ
生まれ変わるのを
信じていたい。


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