彼女の顔

「私はね、
あなたみたいに
いつも笑えないの。
あなたみたいに
優しい人じゃないから。
どうして、
笑顔でいられるの?
・・・見習わないとね!。」

彼女は
皮肉を交えて言った。

笑顔は
見習うものでも
優しいから
いつも笑っているのでもない、と私は思っている。

そもそも
いつも笑っていないし。

彼女は
職場での私の笑顔が大嫌いだったような気がする。
何となく最初から気付いてはいたが
仕事上笑顔は何より大事なこと。

利用者との朝の挨拶、会話、介助・・・
けして楽な仕事ではない。

しかし
笑顔を浮かべると
笑顔が
何倍にもなって
かえってくる。
その笑顔はとても純粋で、
心が和む。

笑顔は言葉のいらない
心通わせる会話の一つ。

幸せだから
優しいから
嬉しいから
楽しいから
笑顔でいられるのではない。

辛さを
苦しさを
痛みを
隠したくて
笑顔を見せているのでもない。

単純に
笑顔でいられる自分が
楽だからなのだ。


私の手元に残っている
幼年期頃の数少ない写真。
その写真には
笑顔の映った写真はほとんどない。
無表情か
泣いているかどっちかだ。
二十歳を過ぎても
相変わらず無表情、
どちらかというと怒りの顔であった。

やっと笑えるように、
人に笑顔をみせるようになったのは
不愛想な男と恋に落ちてからなのかもしれない。

とにかく笑顔を見せないこの男、
自分から笑顔になるしかなかった。


優しそうな笑顔を見せようが
クールな表情を見せようが
つくり笑顔だろうが
自然な笑顔だろうが・・・どうでもいいのだ。
好きなようにすればいいのだ。
自分が楽になれる顔でいれれば
それでいいじゃないか。

繋がり繋がる不思議な孤独な世界、
見えそうで見えない二面性の世界・・・。

どんな気持ちで、
顔つきで
生きようが個人の自由だが
無理やり笑顔を抑えようと
口元を固め
強がりをみせる人たちがいる。

それはそれでいい。
本当にどうでもいい。

しかし私は
彼女のことを
もっと理解するべきだった。
職場での
彼女の心の声を
もっと聞くべきだった。
彼女が笑顔になれないことを
ぼそっと口から漏らしたとき
私は
彼女の怒る顔ではなく
心を見つめるべきだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿