白髪の男

白髪の男を知っている。

何も知らないのに、知っている。

いつもの夕暮れ、

橋の向こうから現れて、

静かに私の傍を通り過ぎる男。
 
すれ違うとき、

互いに目が合った。

胸に突き刺さるうつくしい痛み。

男の瞳がきれいに透けて見える。

人の、世の濁りを

代わりに払っている男。

孤独を抱えて、

死ぬまで尽くす限りなき男。


白髪の男を知っている。

何も知らないのに、何となく知っている。

雨の日も 雪の日も、

白髪の男は傘も差さず、

橋の上を歩いている。

すれ違うとき、

互に目が合った。

男は私に近づいてきて、こう言った。

「お互いの事、何も知らないけど
君と僕はずっと前から友達」。

私の手にくちづけする白髪の男。

優しい温もりが体中に伝わる。


白髪の男を知っている。

彼は犬であり、彼は友達でもある。




0 件のコメント:

コメントを投稿