それは


ゆっくり、ゆっくりと漕いで行く。

絶えそうで絶えない白い意識。

消えそうで消えない黒い意識。

それらを乗せて、

船は、ある宇宙の何処かを漕いで行く。


断片的な記憶が隕石のように現れ、

白黒の意識の底へ突き当たり船を沈ませた。

浮き上がる意識達は果てしない空間を

迷子のように彷徨い続け、ある時に

ぱらぱら、ぱらぱらと落ちて来る。


一枚の、薄い白黒の痕跡には、

儚くも、うつくしい真の意識が隠されていて

記憶の断片が蘇生し始め、

今の私に問いかけてくる。

「その後、どうなったんだ?」

・・・・・・・・。

艶艶しい白黒写真。

艶と光っている目の主。

無気力な私を叩き起こし

静かに再生させ、浄化させては、

何ことも無く消えて行く。


ゆっくり、ゆっくりと漕いで行く。

そしてまた、ゆっくり、ゆっくりと沈んで行く。


森山大道が写した野良犬や野良猫が私を見つめている。

沈む船から何かをくわえ、ぱらぱらと落としていた。

それは、私の、

白黒の一枚の写真であった。


※森山大道は日本の写真家。


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