わからない


街の灯りが恋しくて橋を渡った。

橋より長い日暮れの裾を踏みながら、

慎ましい足取りで、

人通りの少ない裏道へ入った。

千歳鶴近くの酒屋の男達が

立派な腕をむき出して

トラックに酒を積み上げていた。

酒は、街に集う誰かと誰かの喉を潤し、

賑わい、歌い、口論し、慰めては

出会いと別れ、そして誘惑の

乾杯へ消えて行くだろう。

街が見えて来た。

私に、「お前、何しに来たんだ?」と聞いている。

わからない・・・。

街が嘲るように言う。

「もう、帰れよ!お前に用何かないよ」

・・・・・・・。

私は踵を返して川へ行くことにした。

薄暗い空き地へ暮らすたんぽぽ達に出会い、

しばらく話を交わしていると

うっすらと光が目に入った。

丁度いい距離を置いて私を観察する野良猫。

あなたの視線だったのね・・・。

野良猫が静かに、私に聞く。

「あなた、何者?」

わからない・・・。

「あなた、弱い人ね!私を見つめるあなたの目がそう言っている」

・・・・・・・。

私はまた、踵を返して橋を渡った。

流れる川は街燈に照らされ

投げ捨てられた世の汚れを拾い洗っていた。

黒ずみの物体、細長い影が

私を付きまとう。

それは自分自身なのか?

わからない・・・・・。

私は誰なのか?

わからない、わからない。








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